静岡、山梨、神奈川を拠点とする6つの生協で構成されているユーコープ事業連合も、「宅配からの派生型」ネットスーパーだ。生協の配送というと従来は共同購入が主力だったが、時代は変わった。ユーコープの共同購入の利用者は毎年10%ずつ下がり続け、すでに供給高(売上高)1000億円の4分の3が個配で占められている。昨年、ユーコープに加入し個配を利用した会員11万7000人のうち、約半数がこれまで生協の店舗も共同購入も利用したことがない人々だ。
ただし、他のネットスーパーが便数を増やし、2~3時間という細かい時間指定を実現しているのに対して、ユーコープをはじめとする生協系は共同購入の伝統を受け継いでいまも配送は週に一度。いかにこの不利な状況をカバーしているのだろう。執行役員・宅配運営部長の朝原隆充に聞いた。
「まずは配送の確実性ですね。圏内50万世帯に配る配送のインフラがあるので、雨でも雪でも必ずお届けできる。注文が多くて配送が手当てできないからと、お断りすることもありません。そして、やはり商品です。組合員の願いを形にしたコープ商品もそうですが、宅配を前提にして開発した商品が強み。もう一つ、何か事故が起きたときのトレースバックが可能なこと。商品回収が可能なんですよ」
朝原の言う「宅配専用商品」の好例が、「挽肉のぱらぱらミンチ」だ。挽肉が粒状のままぱらぱらに凍結されているので、必要な分だけ使いやすい。加工段階から顧客宅まで温度管理を徹底したユーコープの専用インフラを前提に開発された商品だ。店頭からピックアップし、保冷剤を使って運ぶネットスーパーでは不可能な差別化商品といえる。
OCRや電話に加えて、ネットでの申し込みを始めたのが02年。まだネット経由の利用は全体の12%にすぎないが、将来を見据えて今年の春サイトを刷新した。新しく追加されたWebカタログは、ページをめくり、そこから注文できる。
おもしろいことに平均利用金額はインターネットが6212円と、カタログよりも1000円高い。
「利用頻度の高い方がネットに集まってきているというのもありますが、週に一度、規定の時間に配達に来るとわかっていても、OCRの注文書に書き忘れることはよくある。その点、ネットは注文の締め切りが2日先なので、ゆっくり買い物ができるんですね」
ユーコープは独自商品やWebカタログで攻勢をかけている。生協系もネットスーパーの有力なプレーヤーだ。
2009年10月には、住友商事系のサミットが大手食品スーパーとしてははじめて実店舗を持たないネットスーパーをスタートさせる。8月に閉鎖したつつじヶ丘店を加工・配送センターとして活用する計画だ。あえて無店舗型を選んだのは、従来の「店舗出荷型」では受注件数を伸ばすのが難しいため。つまりサミットと住商は従来のネットスーパーの枠を超えた規模拡大の道を選んだことになる。
「小売業の競争は終盤を迎え、出店の余地が限られてきている。オーバーストアですから、投資効率、リターンはどんどん低下しています。ネットスーパーは地域の占有度を高める空中戦の飛び道具ですよ」と見るのは流通アナリストの鈴木孝之だ。こまめに占有率を上げるのか、ざっくり空間を切り取って地域のシェア拡大を図るのか、図れるのか。ネットスーパーが消費者にとって、選択肢が豊富でサービスが充実した魅力的なチャネルに成長してきたことだけは間違いない。(文中敬称略)
※すべて雑誌掲載当時