シェアビジネスが世界中で広がりつつある。だが日本で動きは遅い。日本発のシェアビジネスも低調だ。問題はどこにあるのか。ウーバーの創業者トラビス・カラニック(以下、カラニック)の半生を追った『WILD RIDE(ワイルドライド) ウーバーを作りあげた狂犬カラニックの成功と失敗の物語』(東洋館出版社)の刊行にあわせて、立教大学ビジネススクール教授の田中道昭氏に聞いた——。

なぜ「ウーバー」は日本で支持されなかったのか

——ウーバーはカリフォルニア生まれ。それに続くように世界ではライドシェア企業が次々と誕生しています。一方、日本ではいまだにライドシェア企業が出てきません。

【田中】まずアメリカでなぜ生まれたのかを考えてみましょう。ライドシェアは従来にない価値を顧客に提供しました。アメリカでは従来、タクシーを呼ぶのに10分かかっていましたが、ウーバーはアプリで呼ぶと3分で来る。なぜ早いかというと、ウーバーが膨大な走行データを持ち、3分後にどこに人が集まるのかAIで予測しているからです。ウーバーのビジネスの裏側はともかく、呼んですぐ来るのはとても便利で、そのカスタマーエクスペリエンスが消費者の支持を得ました。

では、なぜウーバーが日本で支持されなかったのか。まず日本はアメリカほどタクシーをつかまえにくいわけではないし、サービスレベルも悪くありません。それと、タクシー業界が既得権益を守るために強硬に反対したことも大きい。ライドシェアと白タクは本来違うものです。しかし、業界はライドシェアを白タクのように見せることに成功して、消費者もそのイメージでライドシェアを見るようになりました。

ここにはウーバーの戦略ミスもありました。いま指摘したように、ライドシェア会社の本質は「ビッグデータ×AI」企業。つまりライドシェア企業は単なる輸送業ではなくテクノロジー企業なんです。したがって、ライドシェアということ自体にこだわる必要はなく、タクシー会社と組んでタクシーアプリとして進めていてもよかった。そうすれば業界団体から敵視されることもなかったはずです。実際、中国のDiDi(滴滴出行)はソフトバンクと組んで日本に進出しています。これは賢い選択です。

一方、ウーバーは日本でも登場した当初はいつものようにアウトロー的なやり方で突破しようとして、強烈な反発を食らいました。どこかと組んだりフレンドリーなやり方をしていたら、おそらく結果は違っていたと思います。ライドシェア自体は社会的価値の高いサービスですから、そこは残念ですね。

写真=AFP/時事通信フォト
米配車サービス「ウーバー」の創業者、トラビス・カラニックCEO