移民が家事代行や育児支援サービスに従事することによる恩恵は、長時間働けることだけではない。それ以外の活動も増える可能性がある。女性の社会進出とセットで議論されることの多い政策課題には出産もある。続いて、移民による家事代行や育児支援サービスの充実によって、出生数が増えるのかを考えてみよう。

労働力率と出産率はそれほど関係しなくなっている

自分の限られた時間を、働くことと子育てに割り振らないといけない女性は大変だ。もちろん、就業と養育の両立は性別を問わない問題だが、これまでの研究を見ても、世界的に「育児負担が女性に偏っている」という認識がうかがえる。

たとえば、働くことと子育てを両立する難しさは、しばしば女性の労働力参加と出産の間の相関によって分析される。そして、個人レベルで女性の労働力参加と出産の関係を見てみると、負の相関があることが知られている。つまり、働くほど出産が減る、もしくは、出産が増えると働かなくなる。どちらかの選択をあきらめないといけないわけだ。

しかし、過去50年を通じて、国家内における労働力率と出産率の相関はかなり弱まっている。働くことと子育て、どちらかを選ぶともう一つを犠牲にしなくてはいけないわけではなくなってきているのだ。

米国では移民が子育て費用を下げている可能性がある

こうした現象の理由の一つとして、単純労働に従事する移民の安定的な流入が寄与しているという見解がある。単純労働者の移民の流入が、技能労働者である市民の子育てに関わる費用負担を減らしたというものだ。

1980年から2000年までの国勢調査のデータを使って、アメリカにおける70の大都市の状況を検証した研究がある(注3、図表1)。アメリカの大都市では、その都市における大卒男性の1人当たり所得と比べて、育児支援分野での賃金が低下している。特に、生産活動に従事する人口である「生産年齢人口」に占める単純労働者の移民割合が増えているほど、こうした賃金の低下も大きくなっている。つまり、アメリカでは、単純労働者である移民が子育て費用を下げている可能性がある。

生産年齢人口に占める低技能移民の割合

この研究では、仕事と出産の両立がしやすくなっていることを検証するにあたり、「大卒である非ヒスパニック系の女性」に分析対象が限定されている。これは、労働市場において、移民と競争することで生じる影響をできるだけ排除するためだ。移民によって子育て費用が下がっても、移民と競合することで市民の賃金も下がれば、彼らの仕事や出産に影響を与えるかもしれない。この研究では、移民による子育て費用低下の影響に集中したいわけだ。

注3:Furtado, D. and H. Hock, 2010, Low Skilled Immigration and Work‐Fertility Tradeoffs Among High Skilled US Natives, American Economic Review 100(2), 224‐228.