第2次大戦後、ヨーロッパはポスト近代に入り、施設への隔離収容から地域での医療、介護へと転換しました。専門のスタッフがいるグループホームを受け皿にして、社会復帰を目指す出口戦略をつくったのです。

一方、かつての日本では、精神病患者を座敷牢に閉じ込めて隔離していました。戦後になって座敷牢はコンクリートの病院に変わりましたが、精神病患者を隔離収容するという考え方は同じです。精神病院は、ヨーロッパの国家政策と違い、ほとんどが私立病院の営利政策任せ。近代からの超克の過程を踏まず今日まで至ったと言えます。

撮影=プレジデントオンライン編集部

そう見ていくと、日本はまだ遅れてきた近代を引きずっていると言わざるをえません。その視点で見れば、中国もやはり遅れてきた近代国家なんです。ウイグル族の強制収容施設が世界的な問題になっていますが、少数民族の隔離政策は典型的な「近代」の発想といえます。

8050問題の原因は「精神医療システムの機能不全」

——「8050問題」の引きこもりも、ある意味、座敷牢的な対症療法の被害者といえるかもしれませんね。

昨年、元農林水産事務次官が家庭内暴力の息子を刺殺した事件が起きました。ほかにも、カリタス学園バス停死傷事件や、吹田市の交番襲撃事件にも共通項があると思います。

それは、居場所がないから起こされた事件ということ。事件の背景にはさまざまな要因がありますが、その3つは孤独が引き起こしたとも言えると思うのです。

生き生きと働き、納税者になる

——『日本国・不安の研究』では、そうした状況を変える可能性を持つ、新しいスタイルで活動するグループホームの事例が紹介されています。

猪瀬直樹『日本国・不安の研究 「医療・介護産業」のタブーに斬りこむ!』(PHP研究所)

全国でフランチャイズ展開している「わおん障害者グループホーム」ですね。私は千葉県八千代市のグループホームを見学しました。住宅街を訪ねると、7軒の空き家を利用したグループホームが点在していました。

3人から5人が暮らすふつうの木造2階建てには、リビングやキッチン、風呂、トイレなどの共有スペースのほか、それぞれの個室がある。その7軒を生活支援者ら7人のスタッフがサポートする仕組みになっていました。

入居者は、精神障害、知的障害、身体障害、発達障害などさまざまな障害を持っていますが、ほとんどは障害者雇用枠で企業に雇用されて、収入を得ています。家賃や光熱費などの自己負担金はかかりますが、障害者年金と収入を合わせれば、余裕を持って暮らせる。こうした取り組みが、1兆4000億円の精神科入院費用削減につながっていくんですよ。