大切だけど多くの人が見失う「自分軸」

それに対して、「自分軸」は、個々に違ったピュアな欲求、情熱、興味、好奇心、ワクワクなどが根っこにあり、その人が大切にしている生き方や倖せ感、豊かさなど、まさに在り方(Being)のこと。

そのうえで、事業を行うリーダーには、つくり出したい世界観やビジョンがある。もう少しわかりやすく言うと、「誰のために、何のために事業を起こすのか?」「なぜ、その事業をするのか?」「結果としてどんな(リーダーが)ワクワクする豊かな世界になるのか?」ということである。「自分軸」は、目に見えなくて、自分の心と連動して感じる世界である。

イラスト=勝屋久
自分軸と他人軸

ひと昔前の経済右肩上がりの時代なら、強力な「他人軸」があればその時代の成功者になれたかもしれない。長いものに巻かれることで出世できたかもしれない。けれど、今という時代では、「自分軸」と「他人軸」との掛け合わせがないと、いい流れには乗れない。なぜなら、「他人軸」には、AI(人工知能)やロボットでも置き換え可能な部分が広がっているからだ。

これまでのプレゼンメソッドはもう通用しない

僕はスタートアップのピッチコンテスト(短い時間で自社の製品やサービスを紹介するコンテスト)やビジネスコンテストの審査員として、多くの経営者を見てきているが、自分の純粋な想いや情熱ではなく、注目されているウェブメディアに出る流行はやりの専門用語を並べて、典型的なプレゼンメソッドで話す経営者をたまに見かける。

あるピッチコンテストで起業家のプレゼンを聞いていたときの話だ。そのときの話に僕はどうにも違和感を覚えて、「それ、本当にやりたいことなの?」と尋ねると、難しそうなことを機械のように論理的に説明し出した。「僕は説明ではなく、やりたいことなのかどうかを聞きたいの」と伝えると、本人はザワザワして、少し感情が出始め、「昔、こんな体験をして、悲しいと思って、どうにかしたいと思って……」と語り始めたのだ。

僕にはだんだんその人の存在がはっきりと見えてきて、「いいじゃない! その話を聞けてうれしいよ」と伝えると、彼の顔がみるみるうちに笑顔に変わり始めた。横軸である流行りの専門用語を巧みに使うだけでは、縦軸であるその人の存在がかすんで見えてこない。

大切なのは「純粋な欲求」「好奇心」「興味」といった自分の根っこと、自分の世界観、そして、手がけるビジネスのビジョン、つまりは自分軸を育てることだと思う。そして、自分軸を育てながら社会と関わることで、「集団圧力」「SNSの情報」「他者の存在」といった他人軸に翻弄ほんろうされることは少なくなる。他人軸に振り回されず、意識的に、そのときいいと思う選択ができるようになる。