「病気というのは、静止画ではなく、動画で見なければいけません。どのように症状が変化したのかを見ることで、何の病気かがわかり、治療法も変わってくる。しかし実際には医者は症状の瞬間、瞬間の定点観測しかできません。だからそれをつなげて、いわばパラパラ漫画のように連続のものとして見る。それが、『様子を見る』『変化はありましたか?』という質問につながる。鼻水の色だったり咳の出方だったり、『いつもと違うところ』が医者にとって一番のヒントになるんです。後から見ると、これは風邪だったね、副鼻腔炎だったね、と診断できる。患者さんから変化をいかに引き出せるかが、医者の腕の見せどころと言えます」

患者と医者の「相性」も問題になってくる

もちろん医者も人間。患者と医者の「相性」も問題になってくる。例えば、こんなケースもある。

「医者としては患者さんの自己決定権を尊重するのが一般的ですが、しかし患者さんのなかには『命令されたい人』もいます。例えば、糖尿病などでは、『節制しなければダメです』『運動しなさい』と、キツく言われたほうが安心するという患者さんは少なからずいらっしゃいます。『AとB、どちらにしますか?』と選択肢から判断して、一緒に治療方針をつくっていきたいタイプと『あんた、こんなことしていたら死ぬよ』と言われてピリッとしたいタイプといったように、いろいろなタイプに分かれる。何が患者さん思いのコミュニケーションかというのも、難しいところです」

さらに医者のコミュニケーション力は、患者だけでなく「医療従事者とコミュニケーションをとっているか」も大事な見方になるという。現代医学において、診断から治療まですべてを1人の医者がまかなうことは、いまや少ない。医者のみならず、薬のエキスパートである薬剤師や看護師がうまく連携した、よいチームをつくることが求められている。各者が高度な専門性を持つからこそ、自分の足りない部分をはっきりと自覚し、及ばない部分を任せられる医者を知っていること、医療従事者とよりよいチーム関係をつくれることが、名医の条件となってくる。

「専門性の高い分野をネットワークでつなぐのが現代の医療。いわゆる名医は、どこかその名医のネットワークに関係しているものです。例えば甲状腺がんを専門にした先生には、一緒に治療した同僚や部下、過去に同じチームで研鑽を積んだ知己の医者がいる。名医は名医を知る。そうでなければ質の高い医療を提供できない時代なんです。反対に、そうした医者のネットワークにもひっかからないのが、ヤブ医者と言えますね」