「満席のお客様の前で演じてこそ意味がある」

私は今、クラシック音楽界は、マネジメントのあり方も含め、多くのことを見直すべき時期に来ているのではないかと、心底思っています。

いいものをつくっていればいつか認められる、いずれ広がっていく。そう信じて、お客さんが入らなくても必死に耐えて活動を続けている音楽家はたくさんいます。しかし現実には、ただ演奏しているだけではなんの変化も起きません。

以前、東京文化会館での企画の相談を、能楽師シテ方の梅若猶彦なおひこさんに持ち掛けたことがありました。梅若さんは真っ先にホールの客席数について尋ねられた。2300席だとお答えすると、「それじゃあ2300席を満席にする内容を考えないといけませんね」とおっしゃいました。私は普段の感覚で、「その観点からのスタートですか?」と言ったら、「当たり前じゃないですか! 私たちの仕事は、満席のお客様の前で演じてこそ意味があるんですよ。クラシックはそうじゃないんですか?」と言われてしまいました。

優秀なリーダーが集まりにくい業界

自分でも情けないのですが、我々演奏家は、リハーサルと本番に全力で向かい、それだけでいっぱいになってしまう。その先を考える余力を持つことがなかなかできません。でも、能の世界しかり、歌舞伎の世界しかり、「満席のお客様に観ていただいてこそ価値がある」。公演の採算を考えても当たり前のことです。あらゆるところに気を配り、アイデアを出す。本来は、そうでなくてはいけないのです。

とはいえ、コンサートをつくっているのは演奏家だけではありません。オーケストラやホール、マネジメントのスタッフの力もとても重要で、それぞれが努力を重ねています。しかし現実問題として、クラシック音楽のマネジメント側の人材に目を向けると、本当に優秀なリーダーが少ないという厳しい現状もあります。

世の中はいつだって優秀な人を求めています。本当に高い能力のある若者は、求められて一流企業や官庁の仕事に就いたり、自らベンチャー企業を立ち上げるなど、別の道に進んでしまうケースが多い。ビジネスとしての成功が簡単ではなく、不安定なクラシック音楽界には、なかなか優秀な人材が集まらないのです。