日本のクラシック業界が衰退している。それはなぜか。指揮者の大友直人さんは「評論家やジャーナリストの質が変化している。極端にオタク的な評論が増えた結果、嫌いなものを認めない感性を持つ人を増やし、初心者は聞き方を押し付けられるようになってしまった」と指摘する――。
※本稿は、大友直人『クラシックへの挑戦状』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。
90年代以降、勢いを失っていった
音楽のすばらしさを言葉で語り尽くすことはできません。しかし人間は、確かに音楽によって心を癒され、励まされたり勇気づけられたりすることがあります。これほど神秘的でおもしろい世界は、他になかなかありません。
そんなすばらしい音楽を、一人でも多くの人が享受できる。それこそが望ましい社会だと私は思います。クラシック音楽には心の琴線に触れるすばらしいものがたくさんありますから、分け隔てなく多くの人が楽しみ、感動を受け取れる存在であるべきだと思います。”高級な音楽”とカテゴライズされることで、聴かれる機会が減ってしまうのは残念なことです。
しかし今、クラシック音楽界は、残念ながら衰退の道を辿っているといわざるをえません。私自身、自戒の念をもって、これまで私たちは、クラシック音楽のすばらしさを人々に知ってもらうための十分な努力をしてきたのか、今の世の中に受け入れてもらえる、適切な内容の音楽を提供してきたのかということを考えています。
戦後の日本のクラシック音楽界を振り返ると、1970年代初頭までは、東京交響楽団や日本フィルが経営に行き詰まるといった悲劇はありましたが、その分野の努力において状況は悪くなかったのではないかと思います。これは、クラシック音楽界にかかわる人たちが、一心不乱に質の向上を目指していた時代です。
しかし1990年代以降……これは残念ながら私が活動する時期とほぼ重なっているのですが、クラシック音楽界は徐々に勢いを失っていったように思います。