放映権料がIOCの収入の柱になっている

IOCにも問題がある。7~8月は北半球の都市はほとんどどこも猛暑、酷暑に見舞われる。とてもアスリートファーストとは言えない時期が夏季五輪の開催条件に設定されるのは、オリンピックの商業化、つまり欧米のテレビ局から支払われる巨額の放映権料がIOCの収入の柱になっているからだといわれている。

たとえば米NBC(全国放送会社)は76億5000万ドルをIOCに支払って、2032年大会までのアメリカにおける独占放映権を得ている。アメリカではアメリカン・フットボール(NFL)のシーズン開幕やメジャーリーグ(MLB)のプレーオフなどのスポーツイベントが秋に集中しているし、ヨーロッパでも人気のサッカーがシーズンを迎える。テレビ局として世界的なスポーツイベントが集中する秋口よりも、イベントが夏枯れする7~8月にオリンピックを開催したほうが視聴率を稼げる。ということでスポンサーファーストの開催時期になっているのだ。

ところが19年9月、カタールのドーハで開催された世界陸上の女子マラソンで、真夜中に実施したにもかかわらず高温多湿の環境が選手を苦しめて参加者の40%超が棄権する事態になった。これを受けてIOCはマラソン・競歩の札幌移転を速やかに決定、発表した。

しかし、近年は札幌だって夏場の晴れた日には30度を軽く超える。IOCのバッハ会長は開催地変更の理由を「暑さ対策」としているが、それならば代替地は長野のほうが適格だったと思う。長野なら軽井沢など、真夏でも気温快適な1000メートルの高度で42.195キロのコースぐらい簡単に設計できる。男子マラソンの表彰はメインスタジアムの閉会式で行うのが通例だそうだが、長野なら新幹線で1時間で東京に戻れるから12両編成の臨時列車を待たせておけば、1時間半後には国立競技場に選手が(到着順に)駆け込む演出だってできる。

マラソン・競歩の会場移転問題1つ取ってもIOC、JOC(日本オリンピック委員会)、招致委員会、東京都、関係者全員がお粗末という印象は拭えない。恐らくIOCは都民や日本人に問いかけることもなく秘密裏に代替地を探そうとして広く意見を聞くことができなかったのだろう。

寝耳に水の決定に不快感を示して「北方領土でやればいい」と発言した小池百合子東京都知事にも呆れる。ありえないことだが、もし都知事の我が通って酷暑の東京でマラソンや競歩が開催されて重大事故でも起きたら、都知事の政治生命にかかわる。政治家は予測不能のリスクを負うべきではない。300億円以上の予算をかけて遮熱性舗装の工事を行ってきたというが、効果を疑問視する声もある。むしろ都知事としてはリスクを軽減できる札幌移転を歓迎すべきで、あるいは内心そう思いながら、「IOCの決定には同意できないが、決定を妨げないのが東京都の決断」などと、へその曲がった物言いをしたのかもしれない。