それだけじゃない。うちは売り上げ目標にも標準を設けていません。例えば、うちでもっとも売り上げの多い空港線豊中店はひと月に6000万円も売る。ダントツです。以前、2000万円の売り上げだったのを、うちの社長が『2000万円、何、ぬかしてんねん、3000万円、売らんかい』とハッパをかけた。2000万円でも大したものですよ。すると、しばらくして、店長は3000万円の売り上げを達成した。社長はそれでもほめなかった。『アホか、おまえは。5000万円、売ってこい』と。そうしているうちに、今はなんと6000万円も売るようになった。

標準をつくると、人間はそれに合わせてしまう。しかし、やろうと思えば人間の力は無限です。私たちはシステムよりも人間の力を信じている。だから、標準がない。それに、偉そうなことを言いますが、システムの本質は保守的です。システムは変化を嫌う。システムをつくり上げると、なかなかシステムを破る者は現れない。だから、うちの社長も私も言うんです。いいか、昨日と同じことを今日はやるな。毎日、必ず、何か変えろ。そうしなくては売り上げは上がらないぞ、と」

餃子の王将の強さは変化を恐れないこと、他社の真似をしないことだ。そして、人間の力を信じているから、研修でも手を緩めずに、新入社員を怒鳴りつけるし、売り上げを上げてこいと店長の背中を叩く。ただし、上からの目線で下に対して強要しているわけではない。パート社員の都合も尊重するし、店長、従業員の待遇も他社以上を心がけている。

社長の大東は経営者と本社の位置づけについて、こう言っている。

「本部は縁の下の力持ちや。うちの場合、いちばん上にあるのは、お客さん、次が業者の方々とフランチャイズの人たち、そして、現場の従業員があって、底辺にいるのが僕ら経営者や。本社が大きな態度で、現場に命令することはあってはならない」

本社が最底辺にあると自覚し、従業員を大事にしているのが餃子の王将のモットーである。

(文中敬称略)

(浮田輝雄=撮影)