84カ月にわたる連続増収はさすがに止まったが、8月の前年同月比は再びプラスに転じ、業績は揺るがない王将フードサービス。同社の一番の強みである「人づくり」の秘密に迫る──。

入社後10年間必要な専門教育をグループ横断で行う

「餃子の王将 減速?」(朝日新聞)という記事が出たのは今年の7月13日。記事によれば、王将フードサービスの売上高が減少したのは35カ月ぶりで、減少の理由は「昨年(2009)のブーム的伸びの反動」としている。確かに以前のような毎月十数%も売り上げが伸びることはなくなったかもしれない。しかし、それでも餃子の王将の業績は他の飲食チェーンに比べれば独走状態に近いのだ。10年3月期の同社の売上高は672億円で前年比22.4%増。経常利益は76.5%伸びて、109億円。どちらも過去最高なのである。餃子の王将の快進撃はまだまだ止まらない。この春にはネット上に同社の新入社員に対する合宿研修の様子が流れ、一般の人々から「厳しすぎる」との声が上がった。しかし、同社の社長、大東隆行は「愛情を持って育てているからこそ厳しくしている」と語り、研修は間違っていないと断じた。何より、同社の人材育成は短期間の研修だけに依存しているわけではない。大東を支えてきた専務の鈴木和久は「人づくりは研修よりも現場でやっています。OJTをくりかえしているから、うちは強いのです」と語る。

鈴木は大東を補佐して、餃子の王将の経営コンセプトを確立した男である。慶応大学を卒業し、デンタル製品のサンスター歯磨(現サンスター)に入社、経営計画、マーケティングなどを担当した。司馬.太郎の小説『坂の上の雲』の主人公にたとえれば、バルチック艦隊を破った連合艦隊司令長官の東郷平八郎が大東で、鈴木は秋山真之といえる。ふたりは餃子の王将の店頭に、Z旗を掲げ、売り上げ目標の完遂を徹底させてきたのである。

鈴木の説明によれば王将の人づくりの背後には4つの要素があるという。まずは、絶えざる自己改革。王将の成長を支えているのは数々のイノベーションであり、人づくりには社内の変革が欠かせないという。

「私は35歳のときに創業者、加藤朝雄の秘書として入社しました。以来30年、王将のイノベーションを見てきました」

入社当時、鈴木は創業者から「どうやって店に客を集めたか」という話を毎日のように聞かされた。

「創業したのは昭和42年。京都の四条大宮でした。店を開けたのはいいけれど、来る日も来る日も客がこない。レジをしめたら小銭しかなくて、創業者と奥さんは毎日、涙を流したそうです。これじゃいかん、このままじゃつぶれる。それで、考え出したのが、餃子の無料券を配って、人集めすることだった」

だが、中年のオヤジが配る無名店のタダ券をもらってやろうという人は皆無だった。あえて手に取ってくれた人も見もしないで、ゴミ箱に捨てた。創業者の加藤は、ただ単に無料券を配布しても集客には結びつかないことを実感した。しかし、あることから光明が差す。