「他の飲食チェーンはセントラルキッチンにおける調理がセオリーです。たとえば野菜炒め用の野菜は1人前ずつカットされ、袋に入って店に届く。野菜炒めのタレも1人前ずつパックされて配送される。

では、ここで質問です。2人前の注文があったときにはどうしますか? 1袋をふたつ開けて、たれもふたつ使用しますか?

もし、そうしたら、味つけは濃くなってしまうし、調理時間も長くなる。実際には1人前ずつを2回作るのです。そうやって作業を標準化する。それがセントラルキッチン方式の飲食チェーンです。

ところが王将の場合は全員、料理人です。野菜は丸のまま店に運んできて、野菜炒めでも、レバニラ炒めでも、野菜を切るところから始める。料理の味つけも塩、醤油などの調味料を使って、料理人がやる。2人前だろうと、3人前だろうと、誰もがすぐに注文に応えられる。そんなことができる飲食チェーンは王将しかありません」

加えて、王将の作り方は独特だ。ランチタイムなどはどの店でも満員になり、店頭には長い行列ができる。少しでも回転をよくするには、ひとりの料理人が中華鍋を3つ使って料理することもあるのだ。本来、プロの中華料理人はひとつの鍋しか使わない。それが中華の料理人における常識なのだが、王将はスピードを第一にしているから、あえて、その常識を破った。

また、たとえば、さまざまな料理のオーダーが一度に入ったとする。酢豚、天津丼、野菜炒め、レバニラ炒め……。もちろん、注文の順番は大切だが、あまりにも多くのオーダーが入った場合は、まずは天津丼を作る。油を入れ、具と玉子を流し込めば天津丼はできる。鍋を洗わなくてすむから、すぐに次の料理に取りかかることができる。もし、酢豚を最初に作ってしまったら、酢豚は調理後、鍋を洗うのに時間がかかってしまう。短い時間で多くのものを調理できるように、調理方法や順番に工夫がされているのだ。

「うちのイノベーションは創業者以来、すべて現場で考えたものばかりです。少しでも早く料理を出そう、回転をよくしようとしているうちに今の形になった。王将の強さは現場にあります。現場からの知恵で今の王将ができたのです」

そう語る鈴木は鍋こそ振らなかったけれど、関東中の大学、高校の所在地を知り尽くしている。かつて、毎朝、学校の前に立ち、無料券を配ってから、本部で仕事をしていた。王将には事務のエリートはいない。みんな、現場から這い上がってきた社員ばかりだ。