グローバル化が進むなかで、最大の経営資源である「人的資源」を組織的に育て上げるには、どんな方法が優れているのだろうか。持ち株会社制のもとで医薬医療、フィルム、樹脂など事業領域を拡大させている「帝人モデル」を見てみよう。
入社後10年間必要な専門教育をグループ横断で行う
日本人の働きがいの源泉は長期雇用など人を大切にする風土にあるといわれる。しかし「社員を大切にします」という会社や経営者は多いが、それを具体的に担保する仕組みを用意している会社は少ない。
とくに今の時代では、雇用の安定に加えて、社員の成長に応じて仕事を注意深く選んで与え、達成過程でのきめ細かなアドバイスとフィードバックによって自律的キャリアの形成を促す仕組みが「人を大切にする」重要な要素となりつつある。
企業理念に「クオリティ・オブ・ライフ」や「社員と共に成長します」と掲げる帝人はまさにそうした仕組みを長年実践している企業である。
「社員と共に成長」の具体的メッセージとして「社員がその能力と個性を十分に発揮し、さまざまな経験を積み、達成感を味わい、仕事を通じて人間的成長を実現できる場を提供します。社員が自らのクオリティ・オブ・ライフを高めることを支援します」と謳っている。
同社は持ち株会社制に移行した2003年に企業理念の実現を目指した「帝人グループ人事基本方針」を策定した。そこには(1)雇用確保への最大努力、(2)職務・成果・能力・行動に基づく処遇、(3)社員の能力開発への積極的支援、(4)適材適所配置の実現、(5)客観的事実に基づく人事考課、(6)ダイバーシティの尊重――の6つを掲げた。
雇用確保を前面に掲げ、社員の能力開発の積極的支援を社員に約束する方針は、経営陣による徹底した議論の中で生まれた。同社の酒井幸雄人財部長は「そこまで言い切っていいのかどうか、かなり議論しました。最後に行き着いたのは、人はすべての経営資源のなかでも究極の資源だということです。それを前面に打ち出すことは社員にとっても会社にとってもプラスになると考えたのです」と語る。
この人事基本方針に基づいてグループ企業の人事施策を執行する機能も整備されている。同社は各事業会社を炭素繊維、樹脂、フィルムなどの事業グループに分けているが、事業グループの人事部長などは持ち株会社から出向し、定期的に「グループ人事担当会議」を開催。グループ共通の方針や施策を遂行する横串的機能を果たしている。