入社後の人材育成もきめ細かな仕組みを用意している。まず、新入社員は育成の観点から持ち株会社に在籍したまま各事業会社に出向し、5年経過した段階で適性を見て転籍する。若手社員の育成の要となるのが長年にわたり実施しているSDP(Speciality Development Program)と呼ばれる教育プログラムだ。総合職社員を対象に入社後10年の間に営業、技術、スタッフなどの分野で何らかの専門性を身につけることを目的にグループ横断で専門教育を行っている。

「たとえば当社には繊維、樹脂、フィルム事業があります。もちろん各事業ごとに独自の専門教育を実施しますが、それとは別に繊維、樹脂、フィルム分野を素材という概念で一つに括り、そこで働く営業、技術などの社員に共通する専門教育をグループ横断で行うものです」(酒井部長)

SDPの10年間は会社に対するアウトプットを求めるのではなく、じっくりと育成することに主眼を置く。

「SDPが始まったころは“10年ただ飯論”という言い方もされました。10年間はただ飯でもいい。その間に一生懸命に専門性を磨くのだというものです」(酒井部長)

実際、10年間の給与はそれほど差をつけていない。組合員である若手社員の賃金制度は成果ではなく能力重視の「職能等級制度」を導入しており「パフォーマンスによる賞与差はあるが、10年目近くになり、せいぜい職級(等級)で1年ぐらいの差は出るにしても、昔からあまり大きく差がつくようにはしていない」(酒井部長)という。

育成期間中のアドバイスやフィードバックは人事担当者や上長がフォローするのは当然としても、それとは別に入社3年目と5年目に各事業部の役員クラスが一堂に会して「適性面接」を実施している。

「繊維、フィルム、樹脂部門の部長や役員クラスによる社員一人ひとりとの面接を行っています。仕事の内容に始まり、どんな問題意識を持っているのか、自分の将来についてどう考えているのかを聞きます。そのうえで将来的な適性を判断し、場合によっては、今は繊維にいるが、もしかしたらフィルムのほうが本人に合っているかもしれないとなれば、本人の希望なども考慮して能力を発揮できる部門に配置転換することもあります」(酒井部長)

経営幹部自ら個々の社員の成長と育成をフォローするという人的資源の共有化の意義は大きい。もちろん個々の資質と能力を見極めることでコア人材の発掘にもつながる。