学者の「心のバリア」を突破

ここで窺えるのは、20年以上も研究者に質問を繰り返してきた著者のインタビュアーとしての力量である。研究者は都合の悪いことをなかなか言わないものだが、著者の誠実さが学者の「心のバリア」を突破する。ここには長年、科学雑誌「ニュートン」の編集に携わった経験が生きていると評者は感心した。

本書のもう1つの特色は、図版が美しく、見ただけで理解の助けになる点だ。一般に、科学者の作る図表は初学者にはむずかしく、図の掲載がマイナスになっていることも少なくない。ところが、著者は本文と図版を見事にシンクロさせ、イメージを惹起する上手な使い方をする。科学アウトリーチ(啓発・教育活動)のお手本として、「科学の伝道師」を掲げる評者も大いに見習いたい。

本書を通読すると、地球上の生物を38億年もの長期間生き延びさせたのは、生命を司るメカニズムの「多様性」以外の何ものでもないことがわかる。そもそも、地球誕生以来の46億年が多様性を増してゆく歴史であり、拙著『地球の歴史』(中公新書)では全3巻もかけて説明したことを本書ではコンパクトに解説する。

実は、生命自体がこの多様性を利用したとしか思えぬ精妙さで、地球上での存在を盤石にしたのだ。これも「生命をつくってみる」という大胆な発想から見えてきたことだ。その意味でも本書は、生命科学と地球科学の最先端を橋渡しする優れた入門書と言える。

「地球上のいのちは素晴らしい」と改めて思えるような現代生物学の入門書である。生命の不思議に興味をもつすべての人に勧めたい。

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