罰金75万円を肩代わりしてもらうため組員になった

力さんは20歳の時の暴走行為で、罰金75万円の刑事処分を受けていた。

中本さんからは労役場留置を勧められていた。これは罰金を完納できない場合、裁判所で定められた1日あたりの金額が罰金の総額に達するまでの日数、刑務所などに収監されて封筒の糊づけなどの軽作業を行うことを意味する。1日あたり5000円で計算されることが多いので、力さんの罰金ならおよそ5カ月間の拘束となる。

しかし、両親の友人で小学生の頃から見知っていた暴力団員からは「そんなことで労役に行ったら恥ずかしい」と言い含められ、立て替えの提案を受けた。その話がまとまり、半年後には組員として登録したのだった。

そこから逮捕までの5カ月ほど、力さんは基町の家に来ても、身分を隠していたことになる。後に本人は、中本さんに申し訳なくて言えなかった、だから釈放されてすぐ謝りに行ったのだ、と説明している。

謝られた中本さんは、組から抜けられるなら何でもしてあげる、と力さんを説得したという。だが力さんは「入ってすぐにやめられる世界でもないし、今の親分がいる以上は……。ばっちゃん、わかって」と繰り返した。

力さんはたった10万円のために母親に利用された

中本さんは力さんに対する以上に、母親の麻子さんに怒りを覚えていた。

力さんが大麻を所持していると警察に通報したのは、麻子さんだった。逮捕前の力さんは、組員になったことでアパートを強制退去になり、麻子さんの元に戻って一緒に暮らしていたのだ。力さんは大麻を含め、違法薬物を使ったことはこれまで一度もないと主張している。この時は預かっていたというのが力さんの言い分だ。

麻子さんによる通報はしかし、息子の更生を願ってのものではなかった。力さんの裁判に姿を現した麻子さんは、傍聴に来ていた組長につかみかかったのだという。

その時のことを、中本さんはこう強調した。

「力がこがいになったのはお前らのせいじゃ、10万円よこせって、力の入っとる組長に脅しをかけていったわけ。要は、10万円のために息子を売ったんよ」

組長をゆする材料にするための通報だったのだ。そもそも力さんが組に入るきっかけとなった罰金についても、麻子さんは助けようとはしなかった。息子が自分の勝手知ったる暴力団関係者とつながってくれれば、利益になりうるという思惑が麻子さんにあったのかもしれない。

75万円にしても、10万円にしても、まだ若い力さんの長い人生を左右する額としてはあまりに小さい。