「日本人は集団主義」「個性がない」と言われることがある。だが、どこまで根拠のある主張なのか。そんなことを言い出したのは誰なのか。東京大学名誉教授で認知心理学者の髙野陽太郎氏は「その通説の源を探ると、まるで根拠がないことがわかる」という――。

※本稿は、髙野陽太郎『日本人論の危険なあやまち 文化ステレオタイプの誘惑と罠』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の第6章「なぜ『集団主義的な日本人』は常識になったのか?」の一部を再編集したものです。

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通説の源は、ローウェルというアメリカ人

「日本人は集団主義的だ」という通説の源を探っていくと、パーシヴァル・ローウェルというアメリカ人に行き着きます。日本でいえば明治時代の人です。ボストンの裕福な名家の出身で、グランドキャニオンの近くに私設の天文台をつくってしまうほど、財力をもっていました。

この人は、「火星の表面に見える縞模様は、火星人がつくった運河だ」という説を唱えて、有名になりました。本も出版しています。私が子どものころは、まだこの説が少年雑誌に載っていたような気がします。

もちろん、火星人はいませんでした。ローウェルが望遠鏡で見たという「縞模様」も、のちの天体観測者は確認することができませんでした。

ローウェルは、火星人の前には、日本人に興味をもっていました。大森貝塚の発見で有名なアメリカの動物学者エドワード・モースの講演に触発されて、明治16年(1883年)、はじめて日本を訪れました。以後、10年間に5回ほど日本に出入りしています。

ローウェルは、日本について、3冊の本を出版していますが、「集団主義」論と関係が深いのは、最初の本『極東の魂(※1)』です。この本は、明治21年(1888年)にアメリカで出版されました。