前科6犯、前歴15件の73歳の男。そして老人を騙す詐欺グループの「受け子」をしていた22歳の男。2人の裁判を傍聴した北尾トロさんは「2人には『驚くほど何も考えていない』という共通点があった。法廷で反省や後悔を示す様子もなかった」という。こうした「思考停止人間」は、なぜ生まれるのか——。
犯行に計画も感情もない“何も考えていない”被告人たち
2001年に裁判傍聴をはじめたので、傍聴件数はゆうに数百を越えている。そこでは実にさまざまな被告人のタイプを目の当たりするわけだが、心底、理解不能なタイプに遭遇することもある。
わかりやすいのは、綿密な計画を立てて犯罪を遂行する事件だ。また、直情型の暴力的な事件や、目先の欲望に忠実すぎて後先考えず起こした事件など、理性が働かずに犯罪に手を染めるケースもよくある。そうした裁判がある一方、感情の起伏に乏しい、“何も考えていない”被告人が起こした事件も少なくないのだ。
前者は聞いていても犯行に至る動機が理路整然としている。ひどい事件だとしても、被告人になったつもりで事件の内容を想像することくらいはできる。
困るのは、何も考えていない後者だ。一見、被告人に特別変わったところはないのに、傍聴していてもわけがわからず、途方に暮れてしまう。
例えば、窃盗未遂事件を起こした73歳の老人や、詐欺未遂&詐欺事件を起こした22歳の若者である。被告人はいずれも男性だった。