簡単なのに「報酬1日6万円」のバイトを疑わない22歳

そんなことを考えながら法廷を移動し、つぎの裁判を見た。

被告人は22歳のどこにでもいそうな若者。やったことは、老人をだまして金を巻き上げる詐欺グループの受け子で、検察によれば手口は以下のようなものである。

「詐欺グループは被害者宅に架空請求のハガキを出し、弁護士を装って電話をかけ、未納金の200万円を支払えば民事訴訟を避けることができると持ちかけました。そして、現金200万円を指定の住所に宅配便で送らせ、騙しとろうとしました」

被告人の役割は、届いた宅配便を受け取って詐欺グループに渡すこと。バイト代は一日につき3万円で、計6万円を受け取ったという。届け先は空き家で、被告人は勝手に家へ上がり込み、荷物が届くのを待っていたが、近所の人が空き家のはずなのに人の出入りがあると通報し、駆けつけた警察官によって逮捕された。

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証人として被告人の母親が出廷。息子は優しい性格で、今回の件を聞いて驚いていると話した。高卒後、職を転々としていたが、実家暮らしで生活に窮していたわけでも借金を抱えていたわけでもなかった。前科や前歴もない。今回の件は、友人に誘われ、割の良いアルバイトだと思って引き受けた。荷物を受け取るだけでお金がもらえると聞いて怪しいとは思ったが、それ以上は考えなかったそうだ。

なぜ考えない?

「(犯行時は)悪いことを悪いと思えなかった」

被告人はこのアルバイトが犯罪の片棒をかつぐ案件だと見抜いていたはずだ。小遣いに不自由したとしても家も食事も確保できている身。捕まるリスクを冒す意味はどこにもないではないか。

「犯罪と知りながら、金を騙し取ってしまった。(あのときは)悪いことを悪いと思えなかった」

そうではなく、何も考えようとしなかったのだろう。もちろん覚悟もない。被害者のことだけではなく、捕まる可能性のある自分自身のことにも、ひたすら無関心だったのだろう。捕まれば刑務所に入るかもしれない。執行猶予がついても犯罪歴が残り今後の人生に不利に働くかもしれない。親は悲しみ、知人・友人の見る目も変わる。そうした一切合財を”何も考えない”ことでスルー。

その結果、

〈捕まったら人生に大きな傷を残しかねない犯罪の共犯者で1日6万円=どう考えても割に合わないバイト〉

のはずなのに、

〈指定された部屋で待ち、ハンコを押すだけで1日6万円=ラクでおいしいバイト〉

へと価値の変換を行ったのだ。