牛丼屋で釣り銭詐欺「73歳男性」の悲しき思考停止
73歳の窃盗未遂犯は前科6犯、前歴15件の犯罪常習者。今回の容疑は、牛丼屋の券売機の釣り銭が出てくるところにガムを貼り付けてコインをくっつけ、お釣りの一部をかすめようとした疑いが持たれている。
なんかもう、古典的というか、ちっちゃいというか、成功したとしても100円くらいしか稼げないと思われる詐欺行為。成功の確率も高いとはいえず、どう考えても割に合わない。事実、被告人は過去にも同じような手口で捕まっている。
10歳のとき、女手一つで被告人を育てていた母が他界すると、被告人はきょうだいたちとともに養護施設に入り、中学卒業後、塗装店やクリーニング店で働き出す。その後上京してからは新聞配達員を長く務め、やがて日雇い労働者として飯場を転々とする。仕事を選ぶときの条件は、いつも「住み込み可」であることだった。
60代になり、日雇いで使ってもらえなくなると、被告人はホームレスに。暴行や窃盗で捕まることが急速に増えていく。今回の幼稚な釣り銭詐欺も、住むところや仕事がなく、他に金を得る手段を思いつかないことから思いついた。
生活保護を受給していたのに、他者とのつながりも断つ
ただ、首をかしげることもある。被告人はかつて、保護司の尽力で生活保護を受給していた時期があるのだ。ひとり部屋ではなかったものの住居もあり、仕事がなくてもなんとか暮らしていける状態のはずだった。しかし……。
「私は人とすぐぶつかる性格で、同室だった男と気が合わずに短期間で保護施設を出てホームレスに戻ってしまいました。バツが悪くて保護司さんと連絡を取らなくなり、生活保護もそれきりです」
生活保護で受け取る金が惜しいと思わなかったのか、と質問されても、そのときは気にしなかったと答える。
福祉の充実は日本社会に欠かせない。それによって救われる人も多数いる。だが、被告人のような人を目の当たりにすると、いったいどうすれば良いのだろうと考え込んでしまう。恵まれない境遇で育ったとしても、犯罪者になることなく人生を切り開いていく人は大勢いるのだ。いったい何が違うのだろう。
“何も考えようとしない”ことではないだろうか。想像力を働かせることをやめているために、感情に身を任せ、後先考えない行動を取るのではないだろうか。
思考を停止し、人生を立て直すことをあきらめる。計画性を捨て、目先のことのみを追いかける。職を得る努力をやめる。他者とのつながりを断つ……。この事件、高齢で家も仕事もないから起こしたように見えるけれど、根本には“思考停止”があると僕は思う。