「マトリ」に連行され取調室へ入る

私の捜査を担当していたのは、厚生労働省関東厚生局麻薬取締部。通称マトリと呼ばれる厚生労働省の機関の一つです。九段下にある庁舎に車で連れて行かれ、そのまま取調室に入りました。

昼過ぎだったので、取調官が昼飯用のパンなどを差し入れてくれましたが、食欲なんてありません。どこから買ったものか、いつ到着したのか、効き目はどうなのか。私が話したことを取調官が調書にまとめていきます。そしてトイレに行くたびに、尿検査を求められました。

尿はすり替え防止のため、放出するところまで見られます。ラッシュが尿に残って検出されるなんて絶対ないと思っていたので、全て提出しました。不快というより、こんな経験なかなかないだろうと、どこかまだ他人事のように思っていたほどです。

取り調べが一段落し、夜飯用のコンビニ弁当が差し入れられて、捜査員と雑談などをしながら過ごします。小さな窓から見える景色が、どんどん暗くなっていき、不安でした。しばらく経った頃、ドアの外が少し騒がしくなります。家宅捜索にきたリーダー格の捜査官が、逮捕状を持って部屋に入ってきました。

キットで作ったあの液体は「クロ」だった

「押収した液体の中から、違法薬物である亜硝酸イソブチルが検出されました。医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全生の確保に関する法令違反の容疑で逮捕します」

私は慌てるとか、泣き崩れるといったことはなく、「あぁ」とひと声うなった後、ただ呆然としていました。

「今、留置場を探しているから、暫くここで待機してください」と言われ、取調室に残ります。「どうしよう……」。ようやく絞り出すように声が出ました。

薬物事件の捜査で捜査官に踏み込まれた時、これでようやく薬を止められるという理由から「ありがとうございます」と感謝を述べる人が少なくないそうです。私の場合、「ありがとう」とまではいかないのですが、あの液体は、違法なものだったのか。正体がわかってよかったという感情がありました。

マグショット(逮捕後に撮影される写真)と指紋をとられた頃から、ようやく「しっかりしなければ」と我に返ります。

「弁護士はどうします? 誰か知り合いはいますか?」と聞かれますが、あいにく名前が思いつきません。

こういう場合は、国選の弁護士ですかね? と相談していると、ふと逮捕直前に見た番組で、フジテレビのアナウンサーだった菊間千乃さんが歌手の方と対談していたのを思い出しました。「あの、元フジテレビの菊間弁護士も呼べるんですか?」捜査官に尋ねると、「来るか来ないかはわからないけど、声はかけられますよ」と言います。

これからマスコミ対応なども含めて大変だろうから、それも含めて引き受けてくれないかな。全くお会いしたこともなかった方に、今考えるとはなはだ迷惑な話で申し訳ないのですが、「駄目元ですけど、声をかけてください」とお願いしました。