薬物依存症の人は逮捕時に「ありがとうございます」とお礼を述べることがある。薬物依存症の治療に取り組む松本俊彦医師は「これに対し『反省が足りない』などと怒る人がいるが、それでは問題は解決しない」と指摘する。危険ドラッグの製造・所持で逮捕歴のある元NHKアナウンサーの塚本堅一氏との対談をお届けしよう――。(前編/全2回)

※本稿は、塚本堅一『僕が違法薬物で逮捕されNHKをクビになった話』(KKベストセラーズ)の一部を再編集したものです。

逮捕されて「ありがとうございます」と言う心理

【塚本】薬物依存からの回復をサポートする活動の一環として、松本先生は「薬物報道ガイドライン」の策定にもかかわりましたよね。このガイドラインを設けるきっかけは何だったのでしょうか。

【松本】芸能人の薬物報道に対し、以前から僕を含めてモヤモヤしていた人は多かったと思うのですが、きっかけになったのは2016年6月です。高知東生さんが覚醒剤と大麻所持の容疑で逮捕された際、高知さんはマトリ(麻薬取締部)の捜査官たちに「来てくださって、ありがとうございます」とお礼を述べました。

この件をTBSの情報番組『ビビット』が取り上げたとき、コメンテーターのテリー伊藤さんが、「『ありがとうございます』なんて、ふざけたこと言いやがって! アイツは反省が足りない!」と罵ったんですよ。僕はこれをリアルタイムで見ていて、こみ上げてくる怒りでカーッと胸が熱くなりまして、このままじゃいけないなと。

【塚本】わかります。

【松本】僕の患者さんたちの多くに逮捕歴がありますが、彼らの多くが逮捕されたときに高知さんと同じようにお礼を言っている。「これで、やっとクスリをやめられる」とホッとするのが真相ですよ。このままじゃいけない、やめなきゃと考えていて、やめる努力をしているけれど、それでもやめられない。でも、逮捕されれば、今度こそやめられるんじゃないか。その瞬間、すごく心が正直になり、思わず口から出てくるのが「ありがとうございます」という言葉なんです。すごく重い感謝の気持ちで、それまでいかに苦しんでいたかを表す言葉です。しかし、件のコメンテーターには、まったく正反対に受け止められてしまったんですね。