手錠をかけられ、逮捕された実感がわく

暫くすると「湾岸署に決まりました。これから、移送します」と報告が入り、慌ただしくなってきます。いざ取調室を出るとなると、いよいよ逮捕された実感が湧いてきます。

手錠が出され、両腕にかけられました。手錠には逃走防止の縄がついていて、時代劇で聞く「神妙に縄につけ」とは、まさにこのことでした。車に乗り込み、湾岸署に向かいます。後部座席の真ん中に座り、両脇を捜査官に挟まれ、まさに「逮捕された容疑者が車で移送される」状態です。

湾岸署近くまできたとき、前方にワゴン車が停車していました。すでに夜遅く、22時をまわっていたのですが、後ろの荷台が開いた状態で何人かが作業をしています。私には、それがカメラの撮影クルーに見えてしまいました。マスコミに流れた!「あれ、カメラじゃないですか!?

もう、報道は知ってるんですか?」とこの時初めてパニックを起こします。「まだ知られてないから大丈夫、大丈夫」と何度か捜査官に繰り返されているうちに、湾岸署に到着します。

「大変なことが続くと思いますが気を強く持って」

車を降りる際に、捜査官の一人から「これから大変なことが続くと思いますが、どうか気を強く持ってください」と言葉をかけられました。でも私には言葉を返す力も残っていませんでした。曖昧な返事をして、署内に連れていかれます。

塚本堅一『僕が違法薬物で逮捕されNHKをクビになった話』(KKベストセラーズ)

まずは小部屋に入れられて、所持品の確認が行われました。お金は1円単位まで、財布の中のカード一枚一枚に到るまで、細かく所持品リストに記入していきます。その後、着ていた服が回収され、裸になって四つん這いになり身体検査が行われました。ヒモや伸びる類のものは、自殺の恐れがあるので一切持ち込み禁止です。下着(パンツ)は大丈夫でしたが、ヒートテックは駄目でした。

留置場のグレーのスウェットを借ります。この時点ですでに23時をまわっていました。夜中なのに、留置場の中は薄明かりが付いていて、ただ静かな印象です。「申し訳ないけど、相部屋ですよ。今日はもう(興奮して)寝られないかもしれないけど、とりあえず横になった方がいい。起床は6時30分です」

布団部屋に案内され、自分用の敷布団と掛け布団を受け取り、指定された部屋に入ります。同部屋の人は、当然寝ていました。部屋はそれなりに広かったのですが、自分のほかには一人だけだったので、少し離れた場所に布団を敷いて、とりあえず横になります。朝イチのガサ入れから、いろいろなことがありすぎた一日がようやく終わる。当たり前ですが、全く眠ることができません。

横になったものの、考えることが多すぎて、めまいを起こしたように天井がぐるぐると回っています。今、この状況の中で自分ではどうすることもできませんが、考えずにはいられません。「逮捕されたということは、いつ知られるんだろう。局内は大騒ぎになるはず。番組にも迷惑がかかる。姉にはマトリから連絡が行くのだろうか……」

決して真っ暗にならない留置場の夜は、一睡もできないまま過ぎていきました。(続く)

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