ウナギについて、本格的にASC認証の取得を目指して具体的な行動を開始した例は、おそらく世界で初めてです。現在のところ、持続可能であることが第三者機関によって証明されたウナギの養殖は、世界に1つも存在しません。

ニホンウナギだけでなく、ヨーロッパウナギ、アメリカウナギも減少し、IUCN(国際自然保護連合)によって絶滅危惧種に指定されている今、イオンの取り組みは、持続可能なウナギ養殖のモデルを世界に先駆けて示すことにより、ウナギの持続的利用を世界に広げるきっかけとなることが期待されます。

消費者の行動で状況は変えられる

海部健三『結局、ウナギは食べていいのか問題』(岩波科学ライブラリー)

企業や組織は、それぞれ工夫を凝らして宣伝を行います。これらの宣伝のうち、環境保全や資源の持続的利用を唱える宣伝の中には、実際には効果をもたない「グリーンウォッシュ」が相当数含まれています。消費者は、より適切な知識と批判的な視点をもって、宣伝の裏にある状況を可能な限り正確に読み取る必要があります。

結局、ウナギは食べていいのか問題』では、第1章から第8章にわたって、ウナギをめぐる異常ともいえる状況を紹介しています。現状は異常かもしれませんが、消費者の行動によって、この異常な状態を正常に近づけ、ウナギの問題を解決へと導くことは可能であると、筆者は考えます。小さな一歩から、より適切な取り組みが広がっていくことを願っています。

(*1)Greenpeace(2018)「グリーンピース調査:絶滅が心配されるニホンウナギ、大手小売業の不透明な調達と大量廃棄の実態が明らかに
(*2)筆者は、国際自然保護連合(IUCN)における、種の保存委員会(SSC)ウナギ属専門家グループ(AESG)のアジア圏で唯一のメンバーとして、ニホンウナギを含むウナギ属魚類の絶滅リスク評価に関わっている。当然、評価に関しては独立性の高い立場を堅持する必要があるが、その一方で、ニホンウナギを商品として扱う経営体にとっては、IUCNレッドリストにおける本種のカテゴリーが組織の利害に関係する可能性がある。
本書で紹介するエーゼロ株式会社、イオン株式会社の取り組みには、中央大学法学部海部研究室および中央大学ウナギ保全研究ユニットも科学的な知見の提供を通じて協力している。しかしながら、これらの取り組みを行っている企業と筆者の職務には利益相反が成立する場合が想定されるため、調査や打ち合わせについて、中央大学が必要とする費用は、中央大学法学部海部研究室および中央大学ウナギ保全研究ユニットが負担し、両企業からは報酬や研究費を含む、一切の金銭的な支援を受けていない。
(*3)エーゼロ株式会社(2018)「ASC養殖場認証の基準を参考にした独自基準案に基づく ニホンウナギの養殖場のパイロット審査の報告書を公表」
(*4)イオン株式会社(2018)「ウナギ取り扱い方針を策定『インドネシアウナギ保全プロジェクト』に取り組み、世界初となるウナギのFIP(漁業改善プロジェクト)を本格始動

【関連記事】
駅直結タワマンが「まち」をやがて破壊するワケ
マック「代替肉」バーガーが日本で流行る可能性
スシローと差「くら寿司」一人負けの理由
コンビニの「サラダチキン」を食べるバカ
日本の「年金破綻」が絶対にあり得ない根本理由