危険な原発とどう向き合うか。小泉進次郎は学生たちに、孫正義は国会議員を前に、講義を行った。田原総一朗も注目するこのスピーチをすべて公開する。

もう黙ってはいられない!
真の文明は、山を荒さず、人を殺さない

――孫正義

「ソフトバンクの社長、今度は東電を買収しようとしているんじゃないか」そんな批判の嵐が吹き荒れました。私がエネルギー問題に対して熱心だという記事やニュースが流れるたびに、株価もどんどん下がっていく。ソフトバンク社内でさえ、批判の声や冷たい視線は流れてきます。私は上場会社の社長ですから、「その社長が本業を離れて何をやっているんだ」と役員会でも大議論になりました。それでも私は動かないわけにはいかなかった。あの震災、とりわけ福島原発の事故を目の当たりにしてしまった後では……。

<strong>孫正義●ソフトバンク社長</strong>。1957年、佐賀県鳥栖市生まれ。80年、ソフトバンクの前身「ユニソン・ワールド」設立。ソフトバンクの売上高は3兆円を突破。孫氏は震災直後から原子力行政への提言を積極的に行っている。
孫正義●ソフトバンク社長。1957年、佐賀県鳥栖市生まれ。80年、ソフトバンクの前身「ユニソン・ワールド」設立。ソフトバンクの売上高は3兆円を突破。孫氏は震災直後から原子力行政への提言を積極的に行っている。

私自身も大いに悩みました。というのも創業以来、私は「自分が決めた本業以外はしない」と固く心に決めていたからです。私にとっての本業とは情報革命。ITと通信分野で勝負し、それ以外はやらない。そう決めていました。しかしその決心は原発事故が起こったことで大きく揺らぎました。

放射能汚染の怖さは目に見えず、匂いもないことです。色も形もないのに、確実にそこにある危険。多くの方が現在不安を抱え、未来の生活にもおびえて暮らしています。そんな中で自分だけが本業に専念していていいのかと散々悩みました。おかげさまでソフトバンクの業績は悪くありません。創業以来最大の利益と売り上げも出しています。しかし自分たちだけが利益を稼いだらそれでいいのかといえば、やはりそれは違います。

最初の筋道だけつくろう。原発に代わる自然エネルギーの可能性を探り、その最初のモデルケースをつくろう。最初の糸口さえつくれば、あとは放っておいても様々な企業が参戦する。そうなるまで力を注ぎ、その後再び本業に専念しよう。そう心に決めました。

ちなみに「(自然エネルギーの)財団をつくる前に、とっとと100億円寄付しろよ」というご指摘もよく受けるので、この場をお借りしてご報告させていただきます。手続きに若干時間がかかりましたが、すでに60億円分は払い込みを済ませました。内訳としては被災地である福島、宮城、岩手の3県に10億円ずつ、千葉と茨城に2億円ずつ、日本赤十字社と中央共同募金会に10億円ずつ、日本ユニセフ協会など震災遺児への支援を行う公益法人に6億円を振り込みました。残りの40億円に関しましては、東日本大震災の復興のみを目的とした公益法人「東日本大震災復興支援財団(仮)」をつくり、そこに全額寄付をする予定でおります。

ロイター/AFLO=写真

ロイター/AFLO=写真

さて自然エネルギーに話を戻しますと、日本では従来、エネルギーといえば火力発電と原子力発電がメーンでした。しかし今回の原発事故を見れば明らかなように、原発はあまりに危険すぎます。

今回のことで私もいろいろ勉強したのですが、中でも驚いたのは、日本は過去10年間で228回もの原発関連事故を起こしているという事実です。もちろんその中には比較的軽いトラブルも含まれているでしょう。が、それにしても年間平均して22回の原発事故というのは十分すぎる数字です。飛行機事故を例に考えてみても、些細な人為ミスが重大な事故を巻き起こすことはしばしばあります。原発安全神話をこれまで信じてきた我々も、やはり今後は見直さざるをえません。

しかし、ならばもう片方の主力である火力発電を無尽蔵に増やせるのかというと、これもまた難しいのも事実です。火力発電は大量のCO2を排出するうえ、燃料となる石油や石炭の価格が過去10年間で急上昇している。限りある資源を世界中が奪い合っているなか、今後はさらに中国やインドが石油をがぶ飲みするようになるでしょう。つまり環境保護の観点からもコスト的な観点からも、火力発電を推進していく道はとれません。

※本稿は6月15日に行われた「エネシフ・ナウ!」の講演要旨です。

※すべて雑誌掲載当時

(三浦愛美=構成 小倉 和徳=撮影 ロイター/AFLO=写真)