危険な原発とどう向き合うか。小泉進次郎は学生たちに、孫正義は国会議員を前に、講義を行った。田原総一朗も注目するこのスピーチをすべて公開する。
――孫正義 今回調べたところ、休耕田は20万ヘクタール、耕作放棄地は34万ヘクタールもありました。高齢化や後継者がいないという理由で放置されたままの土地もあります。
もしこの土地全部にソーラーパネルを敷き詰めたら……、なんと2億7000万キロワットの電力を生み出すことができるのです。仮に2割を使ったところで、5000万キロワット。これは東電の規模ではありませんでしたか?
私はこれを「電気をつくる田んぼ」ということで「電田」と名付けました(笑)。かつては米や野菜をつくっていた田んぼが、これからは電力をつくるのです。もちろんこれは国難を乗り切るための応急処置でもありますから、10年、20年後、他の自然エネルギーで効率のよい方法が出てきたり、農耕地が必要になれば、このパネルは取り外すこともできます。
あるいは太陽光発電は日照時にしか発電できない、という声もあるでしょう。しかし太陽光発電のほかにも、夜中や雨の日も発電できる風力や地熱もあります。適材適所で様々なタイプを取り混ぜていけば、自然エネルギーを現状の9%から30%まで引き上げることは決して不可能ではありません。人間は「できない」と思うからできないのであって、「できる」と思えばいくらでも可能性を生み出すことができるのですから。
また、私は政府に対して自然エネルギーに関する提言を行っていますが、なにもすべてを国に行ってほしいといっているわけではありません。国は新しく自然エネルギーの発電所をつくる必要もなければ、補助金を出す必要もない。税金を投入する気づかいも不要です。ただ、法律という枠組みだけはつくっていただきたい。その枠組みさえしっかりしていれば、あとは放っておいても民間企業が参入して新エネルギー産業は発展していくでしょう。ただ、その枠組みだけは民間ではつくることはできないんです。それは政治家の方々の仕事なのですから、そこだけはしっかりやっていただきたい。
自然エネルギー産業は、世界的にはすでに20兆円規模にまで成長している分野です。投資家の眼から見ても十分に旨みのある投資対象。にもかかわらず日本だけが乗り遅れていたのは、一部の電力会社がこれまでほぼ独占状態にしてきたからです。そこに参戦できる仕組みを国がつくりさえすれば、自然エネルギー市場は一気に広がります。自然エネルギーとは、自然といいながらも実は新しいテクノロジーの結集です。日本はその技術を持ちながらも、市場として小さいがゆえに、一つ一つの設備が高いままでとどまってきました。しかし自然エネルギーのシェアが高まれば当然コストは下がります。何といっても材料は基本的にタダなのですから。
ドイツも原発全廃を決めました。イタリアも国民投票で脱原発が決まりました。そんな世界の流れの中で福島原発事故を起こした日本だけが、脱原発を実現できない理由がありません。
今回の震災は多くの犠牲者を出しましたが、これを機に日本が世界一の自然エネルギー大国になれば、そしてその技術やノウハウの輸出国になれば、災い転じて新しい日本を生み出すことができます。単に震災からの復興だけではない。もう一度未来に夢を抱ける日本。不安を取り除くだけではない、希望を胸に攻めに転じる日本を、我々はきっとつくることができると信じています。
※本稿は6月15日に行われた「エネシフ・ナウ!」の講演要旨です。
※すべて雑誌掲載当時