その点、オバマ大統領は違う。彼は先の国連総会で「アメリカは一国主義をとらない」と演説した。地球規模の問題についてアメリカ一国では決めずに世界との対話を重視するというこの発言は、アメリカの選択に他の国との相談は必要ないと言っていたブッシュ前政権に対する明確な対立概念だ。

同じ国連総会で鳩山首相は「友愛精神に基づき、世界の架け橋となるべく全力を尽くす」と演説して、東アジア共同体構想や温室効果ガスの1990年比25%削減を表明した。友愛もピンとこないが、東アジア共同体も対立概念がハッキリしない。従来、日本と仲の良かったASEAN(東南アジア諸国連合)との関係は切り捨てるのか。それともASEAN、すなわち東南アジアは「東アジア」に含まれるのだろうか、まったく不明だ。

国内では舞い上がりすぎとの批判もされた温室効果ガスの25%削減。これについては、はっきりとした方向性を示しているから、それはそれでいい。ただし削減を本気で目指すとなれば、産業界のみならず国民生活も相応の犠牲を強いられる。その犠牲を甘受してなお、国家の最優先事項として位置づける覚悟があるかどうか、である。

61年、J・F・ケネディ大統領は「この10年間が終わるまでに人類を月に立たせる」とアポロ計画を宣言した。ケネディは「Choose」という言葉を使って「アメリカは月に行くことを選択する」と言ったのだ。ほかにも選択肢がある中で、アメリカは月飛行を選択した。そして69年7月、アポロ11号が月面着陸に成功し、アームストロングとオルドリン2人の宇宙飛行士が月に降り立った。

有人飛行船を地球の周回軌道から宇宙空間に送り込み、月の周回軌道に乗せて月の重力圏から月面に軟着陸させ、人間に月面を歩かせて、再び月を離脱して地球に無事帰還するというプロジェクトは、従来の発想や技術の延長ではどんなに努力しても実現不可能だった。「60年代のうちに月に人類を立たせる」という目標設定をして、そこに至るボトルネックをすべて洗い出し、一つ一つに研究開発費をつけて新しい技術開発に取り組んだからこそ、アポロ計画は成就したのだ。

温室効果ガスの25%削減も従来の技術の延長だけではなしえない遠大なプロジェクトである。具現化するためには鳩山首相はもう一歩踏み込んで、「25%削減のためにはこれだけの技術的なハードルがある。我々日本がリーダーシップをとって予算をつけるので、世界の誰でもいいから取り組んでほしい」と世界に表明すべきだろう。