「少量の飲酒でも悪影響」の報告が増えている

しかしながら、私の願望とはうらはらに、最近は少量の飲酒でも健康には悪影響があるという報告が多くなってきました。195の国・地域を対象にした2018年のメタ解析では「健康上の害を最小にするアルコールの消費量はゼロ」という結果でした(※4)。つまり、Jカーブ効果は観察できないのです。アルコールによる各種疾患のリスクをまとめたグラフでは、少量飲酒でリスクが下がることは示されません。

(※4)GBD 2016 Alcohol Collaborators., Alcohol use and burden for 195 countries and territories, 1990-2016: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2016., Lancet.2018 S e p 22;392(10152):1015-1035.

なお、虚血性心疾患のリスクだけに注目すれば、Jカーブ効果は観察されました。しかし、その他の疾患、特にがんに対するリスクと相殺されました。がんについては少量の飲酒からリスクが単調に増加するのです。アルコール自体とその代謝物はDNAを傷つけます。

私のような酒飲みがグラフを見ると、1日1杯程度のごく少量なら、健康によいとはいえないまでも、ゼロと変わらないように見えます。この研究では、1日1杯は純アルコールにして10gと定義されています。日本酒やワインなら90ml程度、ビールなら250ml程度でしょう。

かなり少量です。健康のことだけを考えるならお酒は飲まないほうがいいですが、ごく少量なら大丈夫といえそうです。

ただ、医師としての経験から、このように説明すると拡大解釈してたくさん飲んでしまう人もいることを知っています。ですから、念のためにはっきり書いておきますが、「少量であれば大丈夫だから」とお酒を飲むのはおすすめしません。お酒を飲むのは楽しいことですが、リスクがあることを承知の上で飲みましょう。私はリスクを承知し、私にとってリスクを上まわるほどの楽しみであると判断して飲んでいます。

「休肝日があれば大丈夫」というわけでもない

「休肝日、つまり、1週間に数日間お酒を飲まない日を設ければ大丈夫」という意見もあるかもしれません。日本人を対象に飲酒パターンと総死亡の関係を調べたコホート研究では、大量飲酒者(週に純アルコールで300g以上)においては、同じ飲酒量であれば休肝日の少ない人の死亡率が高いことが示されました(※5)

(※5)Marugame T et al., Patterns of alcohol drinking and all-cause mortality:results from a large-scale population-based cohort study in Japan., Am J Epidemiol. 2007 May 1;165(9):1039-46.

素直に解釈すれば、「お酒をたくさん飲むなら、休肝日を設けたほうがいい」となります。ただ、休肝日なしにお酒を飲むような人は、アルコール以外にも様々なリスク因子がありそうで、休肝日を設けるだけではリスクは下がらないかもしれません。ただし、休肝日を意識することで全体的な飲酒量が減るならば意味があります。この論文では、休肝日は「日本の社会的信念」だと表現されています。海外では休肝日という概念は一般的ではないようです。