ワイルドではない、マイルドな存在ではあるが…

そして岸田氏は、良い意味でも悪い意味でも、押しが強くない。相手の言うことをよく聞くが、決断力が乏しいとも言われる。昨年の総裁選を前にした時も、優柔不断ぶりを遺憾なく発揮して周囲をヤキモキさせ、結果として自らは出馬せず安倍氏支持を表明した。

今年4月、安倍氏側近の萩生田光一幹事長代行が「参院選後はワイルドな憲法審査を進めたい」と語り、物議をかもしたことがあった。岸田氏は「ワイルド」ではなく「マイルド」な政治家だ。「太陽」役には適任か。少なくとも野党側の警戒感は和らぐだろう。

もうひとつ、安倍氏が岸田氏を憲法改正の前面に出そうとする理由がある。岸田氏は昨年の総裁選は出馬しなかったが「ポスト安倍」を目指している。安倍氏からの禅譲を目指すというのが岸田氏のハラだ。

岸田氏も「岸田派」も、憲法改正には積極的ではない

しかし岸田氏を取り巻く状況は、盤石ではない。7月の参院選では岸田派の現職4人が落選。党内の地位は相対的に低くなっている。本来ならば党三役の一角である政調会長職を奪されてもおかしくない。その岸田氏を留任させ、しかも憲法改正論議の仕切り役という重責を担わせる。

岸田氏は、名誉挽回と「次」への足掛かりをつかむため、憲法改正に向けて全力を挙げるだろう。そこまで読み切って安倍氏は岸田氏を起用するのだ。

それにしても、当の岸田氏にとっては「つらい重責」となる。先にも触れた通り、岸田氏も岸田派も、憲法改正には積極的ではない。反対ではないが優先順位は高くない。特に9条に自衛隊を盛り込む改正については派内で慎重論が根強いのだ。派内の反対を押し切って改憲を進めるのは本意ではないだろう。