だれにも相談できず、精神的に追い詰められていった
この日以降、Aさんに対する監督の態度は厳しさを増していった。5月の大型連休に行われた遠征で主将のAさんは、学校を代表する「Aチーム」ではなく、控えの「Bチーム」で試合に出ることになった。その理由を聞くと「お前が大学で剣道をしないから」といわれた。
5月中に行われた他の試合にも出場できなかったため、Aさんは監督に「試合に出させてください」と申し出た。すると、「お前剣道辞めるんじゃないの? 辞める人間が何言っているの?」と突き放された。
この少し前にAさんは、携帯電話を没収されていた。その理由は、昼休みに校内の売店で食べ物を買うところを監督に見られたことで、禁止されている自習室での飲食を疑われたことだった。剣道部では、Aさんだけでなく、ほかの多くの部員もさまざまな理由で携帯電話を没収されている。このため部員たちは保護者との連絡手段は断たれている状況だった。
その後もAさんは、監督から何度も「邪魔だ」「辞めろ」と言われ続けた。食欲が減り、眠ることもできなくなっていった。だれにも相談できず、精神的に追い詰められていったと考えられる。
「お前に今後なんてねえから。辞めろよ」
限界がきたのは6月だった。6月4日、Aさんは翌日の朝稽古の予定を監督から聞いていなかったため、消灯15分前の午後10時45分に監督の部屋を訪れ「明日は朝稽古でよろしいでしょうか」と聞いた。それに対して監督は激昂した。
「俺が予定を言わなかったのが悪いのかよ。何で今なんだよ。お前、自分の都合でしかやってないよね。本当に辞めてくれる。主将とかの器じゃないから。周りに迷惑をかけるだけだろ。もうお前クビ。辞めてくれていいよ」
他の部員の証言によると、監督は消灯時間を過ぎた後も、外に響くような大きな声で怒鳴り散らしていた。その間、Aさんはずっと正座させられていたという。翌朝、Aさんが謝罪に行くと「お前に今後なんてねえから。辞めろよ」と監督から言われた。これはどういう指導なのだろうか。