債務超過に転落し、極めて危険な状況に
さて、ここまで読んだところで、賢明なあなたならこう思うだろう。
「SHOWROOMは設立から4年しかたってない。赤字なのは当然でしょ?」
確かにその通り。多くのベンチャー企業は、初期段階は特に、サービスや機能の強化に注力する。いわゆる「先行投資フェーズ」にあるため、早期の黒字化はそもそも考えてないことが多い。
特にSHOWROOMのようなプラットフォームビジネスは、いかにユーザーを集め、視聴時間を稼ぎ、メディアとしての価値を向上させるかが、ビジネスの成否を左右する。
現に、メルカリも、米ウーバーテクノロジーズも赤字のまま上場している。「赤字? それが何か?」と言わんばかりだ。つまり、設立4年のベンチャー企業が赤字なのは、何ら不思議ではない。普通の姿だ。
ところが、SHOWROOMは普通でないといえる別の理由がある。4期目で債務超過に陥ってしまったのである(図表3)。
債務超過とは、負債が資産を上回っている状態、つまり純資産がマイナスのことを指す。通常は純資産がプラスで、かつ、その純資産が資産総額の30%以上あるのが企業としてのあるべき姿だ。30%を下回ると、財務的な安全性が低いと評価される。SHOWROOMは純資産が30%下回っているどころの騒ぎではない。マイナスなのである。
債務超過の会社は、通常、銀行から新規で融資を受けられない。上場企業であれば、上場廃止に追い込まれる。極めて危険な経営状態を意味するのである。
出資したいVCは山ほどいそうだが……
今度はこう思う人もいるのではないだろうか。
「そうはいっても、ベンチャーキャピタル(VC)から出資してもらえば、債務超過なんてすぐに解消できるんじゃないの?」
確かに、いまはカネ余りの時代。多くのベンチャーキャピタルが投資をしたくてウズウズしている。SHOWROOMぐらい知名度のある企業であれば、諸手を挙げて出資するベンチャーキャピタルは山ほどいそうなものである。
ところが、話はそう単純にはいかない。その難しさはSHOWROOMの過去のファイナンス実績から推測できる。
SHOWROOMは、少なくとも過去2回増資をしていることが決算書から読み取れる。第1期から第2期、第2期から第3期にかけて、資本金および資本剰余金がそれぞれ増加しているが、それは増資をしているからにほかならない。
過去2回の増資の引受先は親会社であるDeNAではない。DeNAの有価証券報告書を見ると、SHOWROOMに対する持分比率が90.0%→81.8%→74.1%と低下しているからだ。DeNA以外の投資家(ベンチャーキャピタルだと思われる)が増資の引き受けをしているため、相対的にDeNAの持分比率が低下しているのである。
DeNAのプレスリリース(2015年6月24日)によれば、設立直後はDeNAが9000株、ソニー・ミュージックエンターテイメントが1000株を保有していた。その後のDeNAの持分比率の低下割合から逆算すると、1回目の増資で1001株、2回目の増資で約1144株を発行していることが分かる。
それぞれの増資によって、いくらの資金を調達できたかというと、1回目が1億円、2回目が1200万円となっている(資本金と資本剰余金の増加額から算出できる)。
1回目が1001株発行して1億円の資金調達できたのにもかかわらず、2回目は1144株発行して1200万円しか資金調達できていないのである。1株当たりで計算すると、1回目は10万円だったのに、2回目はたったの1万円程度での新株発行だったのだ。実に10分の1の株価下落だ(図表4)。