高級車350台が、33秒で完売した理由

スマホ決済アプリの活用でビジネスを進化させているのが、中国のECサイト大手のアリババです。同社は、在庫管理などにITをフル活用した近未来型生鮮食品スーパー「フーマーフレッシュ」を運営しています。店舗では、購入した食材をその場で調理してもらい食べることのできるイートインも提供しています。また、店舗は周囲3キロ以内への宅配も行っており、ECサイトで注文すると、30分以内に配達してくれます。つまり、店舗はショールーム兼在庫拠点となっており、生鮮食品をECで提供するための仕組みとして、オフラインとオンラインを継ぎ目なく連携させているのです。その中心的役割を果たしているのが、アリババの決済サービス、アリペイ(Alipay)です。フーマーフレッシュは会員制になっており、アリペイと紐付けることで、来店履歴や購入履歴を分析し、生鮮食品の高精度な需要予測を実現しています。

また、日本経済新聞(2018年6月29日)によれば、アリババは自社のECサイトで、イタリアの高級車アルファロメオ350台をわずか33秒で完売させました。それを可能にしたのは、アリペイの決済データとECサイトの履歴を結びつけ、顧客をAIで深く分析したことでした。

スマホ決済アプリは、現金支払いの代わりとなり、少額の個人間送金もできる、単なる支払い手段の1つではありません。それは、小売りや流通のあり方を変え、新たな金融サービスを提供し、精度の高いマーケティングを可能にするものです。日常生活を一変させてしまう可能性を秘めたテクノロジーなのです。

日本では今、人手不足から無人の店舗やレストラン、さらには無人タクシーなどが検討されています。これらを実現するうえでも、スマホ決済アプリは重要な役割を果たすことになります。

現在、国内ではスマホ決済アプリが乱立していますが、その多くは、今後スマホ決済が主流になったときのための保険であったり、あるいは自社サイトで商品を売るための決済手段の1つという扱いでしかありません。アリババのように、スマホ決済アプリをてこにして、新しい社会をつくる構想が求められます。

(構成=増田忠英)
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