経営計画書で「本気の情熱」を伝えられる

アドバイスを受けに行った就農支援機関がA県ならもちろんのこと、そうでなくても、「この人は単に夢を語っているのではない。素人なりに一生懸命考えて計画を作ってきた」と考え、本気で助言をしてくれるようになる。

「本気で助言してくれる」とは、たとえば相談者から言わなくても、「自分の作ったイチゴでジャムとか、アイスクリームとか作ろうとは思いませんか?」などと6次産業化についてアドバイスしてくれたり、「この品種は初心者に難しいので、当初は10アールだけ作って、残りの20アールは作りやすいB品種にするのはどうですか?」と計画の修正の提案をしてくれたり、「この時期はどこのイチゴ農家も忙しいから人を募集していますが、なかなか来てくれないと嘆いている農家が多いですよ」と地元の現状や事情について教えてくれたりするのである。

先ほど“机上の空論でOK”だと言った。その理由は、農業に答えがないからでもある。もちろんデタラメではいけないが、ある程度の数字上の根拠があれば、それは経営計画書としての体を成す。

なぜなら、そもそもアドバイザーは新規参入者で、計画(数字)通り農業ができる人がいるとは思っていないためだ。あえて言い切ってしまえば、経営計画書を見せることで、「本気で移住し、農業をしたいと思っている」という情熱を感じてもらうことができればいいのである。

農村に飛び込んでなじめるかは「賭け」

もう一つ、心を動かせないといけない相手が、「家族」である。所帯を持っている新規就農したいという人にとって、一番の難関はこれだといっても過言ではない。

就農資金は十分。土地の確保もできる。自分の技術にも自信がある。そんな場合でも、家族が納得してくれなければ、就農は難しい。

いきなり「農業をしたい」と言いだしたら、間違いなく家族から「何バカなことを言いだすの?」と反対されるだろう。逆に、「私も農業したい、田舎暮らしをしてみたいと思っていた!」と大賛成されるならいいのかというと、これはこれで問題になることもある。

都会でしか暮らしたことがない人が、田舎に身を置くことを想像するのは、案外難しいことだからだ。

パートナーがどうしても農業をしたいというので、しぶしぶ奥さんがついてきたところ、実際の農村に入ってみると奥さんのほうが急速になじんでしまって「もっと早く来たら良かった!」と言い出すこともある。

逆に、田舎暮らしにあこがれて、なんとかパートナーを説得して田舎に移住したところ、「思っていた生活と違う」とガッカリする人もいる。

そんなわけで、パートナーも自分も、実際の農村に入って、なじめるかどうかは、一種の「賭け」になっている面は否めない。