アイドルのようにもてはやされ、法外なギャラを稼ぐ芸人

だが、私は、それだけを取り上げて、けしからんと拳を振り上げ、彼らに石を投げるつもりはない。先の増田もこう書いている。

「吉本だけが云々ということでなく、芸能界とその筋は緊密度の差こそあれ、何らかの形で関係を持っていると認識している。(中略)むしろ私は芸人こそが“ヤクザ”であり“玄人”であってほしい。ここに挙げたヤクザの意味合いの対極にあるのが“カタギ”と“素人”だ。すべからく芸人は異能者でなければならぬ。異能を抱えて生きるということは、世の尺度から逸脱せざるを得なくなる。世間のはみ出し者という自覚と認識があるからこそ、芸人は笑いに包んだ毒を放つことができる」

増田は、カタギや素人が芸界なんぞに足を踏み入れるべきではないという。私もこの意見に首肯する。

だが、現在、テレビで薄っぺらな笑いを振りまいている吉本を含めたお笑い芸人たちは、この定義には当てはまらない。

彼らは素人のような芸を切り売りし、カタギを自称する。そしてアイドルのようにもてはやされ、法外なギャラを稼いでいる。この連中が反社とつながっているとすれば、お茶の間から即刻、たたき出すべきだ。

アウトローであることより、権力迎合を選ぶ芸人たち

ヤクザとの付き合いがあっても、自らが準構成員でもいい。それでも芸を見せたいのなら、マスメディアではなく、都会の片隅や地方にある小屋で、思う存分芸を披露するがいい。

立川談志師匠は一人会で、たびたび放送禁止用語を連呼していた。さらに金正日マンセー(バンザイ)と叫ぶこともあったし、殺人の容疑をかけられた悪相の人間を「何とかあいつを犯人に仕立てあげようじゃないか」と、毒をまき散らしていた。

談志いわく、寄席というのは本来こういう空間だったという。客は、寄席という非日常的な空間で、普段口にするのがはばかられる黒い笑いや、空威張りしている役人や政治家をこき下ろす噺家の舌鋒に、日頃の憂さを一時忘れ、また日常へと戻って行ったのだ。

芸人は本来アウトローであるべきだ。だが、このところ権力に迎合する芸人や役者たちの何と多いことか。

今春、安倍晋三首相が吉本新喜劇の「なんばグランド花月」に登場した。6月には、新喜劇の連中が首相官邸を訪問して、昼食を共にしたそうだ。

吉本興業所属の芸人たちが権力にすり寄るのは、反社の人間と付き合うより避けなければならないことだと、私は考えるが、一度、吉本の考え方を聞いてみたいものである。

(文中敬称略)

元木 昌彦(もとき・まさひこ)
ジャーナリスト
1945年生まれ。講談社で『フライデー』『週刊現代』『Web現代』の編集長を歴任する。上智大学、明治学院大学などでマスコミ論を講義。主な著書に『編集者の学校』(講談社編著)『編集者の教室』(徳間書店)『週刊誌は死なず』(朝日新聞出版)『「週刊現代」編集長戦記』(イーストプレス)などがある。
(写真=時事通信フォト)
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