会社規模が小さく従業員が少ないころは、ご飯を食べるのも一緒、企画を考えるのも一緒、何をするにもみんな一緒でした。物理的に顔が見える関係だったので、意識しなくても価値観が共有できます。しかし、従業員が増えるとそれまで通りにはいきません。

「食品企業に限って言えば、社長1人では年商1億円が、家族経営では3億円が限界です。5億円にするには、会社は公器であるという意識が必要です。それ以上となると、各階層の職能や専門的知識が必要。10億円企業には責任を明確にするガバナンスが必要です。30億円になるには、社会的に価値がある企業でなければなりません。そして衛生管理や物流機能などの食品メーカーとしてのインフラを整備できれば、50億円が視界に入ります」

石川氏は経営危機を回避するため、規模の拡大にいったんストップをかけます。そして「自分たちがやるべきことは何か」「地域や農業のために役立っているのか」と自問自答します。

大豆の裏作である麦も一緒に守る

そこでまず、社長と社員、社員同士がお互いを理解し、認め合う関係の構築を目指しました。そのために、農業の体験学習や地域の方を招いた催しや、子ども向けの豆腐教室を始めました。

「いきなり経営理念や価値観を押しつけてもうまくいきません。農家や地域の方との交流を通じて、従業員には顔の見えるつながりを大切にしてほしい。こうした活動を通じて、会社の理念や私の考えを従業員のみんなが共有すれば、同じ価値観で仕事ができるようになります。結果として、危機をきっかけに私と社員、パートさんの気持ちを1つにすることができました」

石川氏は4つの「大切にしたいこと」――「日本の農業を応援したい」「地球の環境を守りたい」「昔からの味わいを大切にしたい」「地域の皆さんに愛されたい」を経営理念に掲げます。

同社のコア・コンピタンス(強み)は、国産大豆を使った豆腐づくり。ただし、日本の大豆を守るには、裏作である麦も一緒に守る必要があります。同社が「おからパン」や「とうふドーナッツ」のような商品を展開しているのも、大豆農家を守るためなのです。

「いいものをつくることは大事ですが、それを安く売ったら農家がやっていけません。食品メーカーは売り上げを増やしたい。そのために消費者が喜んでくれるものをつくっています。でも、その根っこにある『日本の農業をどう守るか』『農家の生活をどうしたらよくできるか』を、小さな豆腐屋でも考えるようになれば、日本の農業はきっとよくなるはずです」(石川氏)