インド・ベトナムではなぜ人材マネジメントが難しいのか
インドやベトナムはグローバル化を進める日系企業にとって将来の成長を考える際に無視できない存在になってきている。BRICsのなかでも、その巨大な潜在市場を背景に、特に高い注目を集めるのがインドだ。
一方、ベトナムはもう1つの巨大マーケットである中国と地理的に隣接し、アジアの自動車産業の基地となっているタイとも近く、「チャイナ・プラス・ワン」の筆頭にあげられることも多い。事実、日系企業の進出数および現地での操業規模は着実に拡大しており(2006年度データによるとインド328社、ベトナム555社、出所:日本貿易振興機構)、中期的に見れば両国とも確実にグローバル経営のなかで重要な位置づけに置かれることは間違いない。
しかし一方で、すでに進出している企業からは、「インフラ整備の遅れ」「関係所管とのやり取りの難しさ」と併せて、「人材マネジメントの難しさ」が経営課題としてよく聞かれる。
この「人材マネジメントの難しさ」で、まず目につくことは、賃金の高騰である。アセアンのなかで堅調な成長を示してきたタイの平均賃金上昇率がここ数年6~8%で推移してきたのに比べ、インド・ベトナムにおいては、一部職種・階層を除いて10%をはるかに超えて賃金が上昇している。特に管理職層においては、労働市場での逼迫感が高く、15%以上の賃金上昇が見られる地域もある。「そもそもの賃金水準が低いので、今はなんとかなっているが、これがこの先何年も続くようであれば、コスト競争力の面での魅力は薄れるのでは」と危惧する日系製造業も少なくない。
また、エマージングマーケット(新興成長市場)の宿命ではあるが、日系企業のみならず欧米系企業や韓国系企業の進出も目覚ましいことから、現地人材の獲得競争が更に激しくなってくる。特に拡大する組織を束ねていく管理職層において顕著といわれるが、実際にはスタッフ層やオペレーター層においても同様であり、いい人材を確保しつつ、ビジネスに合わせて人件費をコントロールしうる施策をどのように打ち出していくかは現地経営者にとって重要な経営課題である。