認知症の親の承諾なしでクルマを売り払って以来、絶縁状態

2人目は83歳の男性です。定年まで自動車のディーラー勤めをしていた方です。当然、クルマには詳しく、運転にも自信を持っていました。しかし、やはり認知症の兆候が出始め、駐車の時、他のクルマと接触するなど以前では考えられないミスをするようになったそうです。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/AJ_Watt)

同居する息子さんが心配になって「そろそろ運転はやめたほうがいいんじゃない? 必要な時はできるだけオレが運転するから」と提案したわけです。ところが、本人は運転に自信があるものだから、その言葉を聞いて激昂。

「バカにするんじゃない」

まるで聞く耳を持たなかったそうです。奥さんも息子さん同様、心配してキーを隠したりしたようですが、探し出しては運転する。息子さんによれば、クルマには小さなキズが増えているし、このまま放置していたら大事故を起こすんじゃないかと危機感を持ったため、父親の承諾なしでクルマを売ってしまったのです。

当たり前のことですが所有者ではない人がクルマを売る場合、委任状がなければなりません。委任状には所有者本人の署名捺印が必要。この方の場合、クルマを手放す気など毛頭ないわけですから、署名捺印など無理なわけです。

ただ、本人の承諾がなくても、クルマを売却できる方法もないわけではありません。

家庭裁判所の審判でクルマ売買もできるが、時間がかかる

認知症などにより物事を判断する能力が不十分な人を保護する成年後見制度の利用です。成年後見人になれるのは親族や弁護士、司法書士など。加えて本人が認知症などで判断能力があるかどうかを証明するため、医師による鑑定が必要になります。そのうえで家庭裁判所によって成年後見人が認められ、その意向によって家裁の審判によって、クルマの売買が成立するのです。

このケースの場合、息子さんが成年後見人になろうとしても、本人は医師による認知症鑑定を受けるのは拒絶するでしょう。正式な手続きを踏んでクルマを売ることも難しいわけです。

それに、さまざまな手続きを踏んで息子さんが成年後見人になり家裁の審判を仰いで、などといった悠長なことを言っていられる状況ではなかった。今日明日にでも、父親が大事故を起こしかねないという危機感があったのですから、おそらく人には言えない力技を使ったのでしょう。