新しいサービスを生み出す人材とは

キャッシュレス化の意義は、単に支払いを便利にするだけではなく、支払いをデジタル化することにあります。それによって支払いに伴う行動もデジタル化するので、さまざまなサービスをあわせて提供しやすくなります。そのため、社会問題の解決や、新たなビジネスにつなげることができます。

例えば、市街地から離れた場所に暮らしている一人暮らしの高齢者の場合、現金を引き出しにATMに行ったり、買い物に出かけたりするのは大変です。しかし、キャッシュレス化すれば、AI搭載のペット型ロボットが資金管理(年金受け取りや家賃・光熱費支払いなど)を行い、スーパーなどでの買い物も、自宅でロボットの支援を受けながらバーチャルショッピングができます。さらに、買い物などの支払いデータを基に自治体や医療機関などと連携することで、見守りサービスなどにも応用でき、生活の質を高めることができます。

また、キャッシュレス化は1円未満の細かい決済も可能にします。例えば、自動車にはさまざまなセンサーやカメラが搭載されるようになってきています。これらを利用して、道路状況や気象状況などのデータを自治体や企業に提供すると、その都度対価が得られるような仕組みをつくることも可能です。

こうした新たなサービスを生み出すためには、2種類の人材が必要です。1つは、情報工学に強い理系の人材。もう1つは、広い視野で物事を考えられる文系の人材です。プログラムの組み方はわからなくても、その可能性を社会的ニーズと結びつけ、新たなサービスを構想できる人材が求められます。

インターネットやスマートフォンが登場した当初は、否定的な見方もありましたが、今では当たり前に使われています。キャッシュレスも同じで、利便性の高いサービスであれば必ず普及します。キャッシュレスにイエスかノーか、ではなく、キャッシュレスがこれから普及することを前提に、どのように有効活用していくかを考えるべきでしょう。

目先の利益を追うのではなく、新しいサービスで私たちの暮らしや社会をどうより良くしていくのか。そんなビジョンに基づいたサービスが展開されることを期待しています。

川野祐司(かわの・ゆうじ)
東洋大学経済学部国際経済学科教授
2016年より現職。日本キャッシュレス化協会代表理事、日本証券アナリスト協会認定アナリスト、一般財団法人国際貿易投資研究所客員研究員。専門は金融政策、ヨーロッパ経済論、国際金融論。近著に『キャッシュレス経済―21世紀の貨幣論―』。
(構成=増田忠英 写真=PIXTA)
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