スウェーデンの中央銀行はキャッシュレス化を推進しています。現金の流通にはコストがかかりますし、キャッシュレス化により通貨の動きが把握できるメリットがあるからです。中央銀行では将来に向けて、現金に代わる電子通貨e-krona(イークローナ)の発行も研究されています。

デジタルに弱い人が利用するには難しすぎる

日本は表のように海外と比較して現金比率が高く、キャッシュレスの普及は遅れている傾向があります。その理由として2つ挙げられます。

支払い行動のデジタル化QRコード決済サービスに各社が参入。日常的な風景になりつつある。(PIXTA=写真)

1つは、現金がタダであることです。ヨーロッパでは、ATMを利用すると手数料を取られるのが普通です。しかし、モバイル決済なら手数料はかかりません。ところが日本の場合、自行のATMなら手数料はかかりません。逆にモバイル決済の場合、アプリを入れて設定する手間がかかりますし、そもそもスマホには毎月の通信料がかかります。こうした状況では、現金を利用する人が減らないのは当然です。

ただ、これまではATM手数料を銀行が負担してきましたが、銀行の経営環境が厳しさを増すなかで、今後は海外のATMと同様に利用者負担に変わる可能性があります。

もう1つの理由は、キャッシュレスサービス事業者にユーザー目線が欠けていて、誰もが使えるサービスになっていないことです。キャッシュレス化が進む欧州では、スウェーデンのSwishのように、複数の銀行や企業が協力して統一したサービスを展開しています。

それに対して日本では、キャッシュレスの規格・サービスが乱立している状態です。これではユーザーは混乱しますし、店舗の導入コストも高くついてしまいます。「選択肢が多すぎると何も選ばない」というのが行動経済学の理論です。これを解決するには、複数の事業者の間で統一したブランドをつくって展開することが重要でしょう。システムは共通にして、その先のサービスで差別化を図ればいいのです。

また、現状の仕組みはデジタルに弱い人が利用するには難しすぎます。テレビのリモコンのように、誰もが簡単に使える仕組みにする必要があります。

店舗にとっては、負担する手数料が高すぎることも問題です。オランダやベルギーで普及しているPayconiq(ペイコニーク)というサービスは、決済手数料が1回につき6セントと10円未満です。このように、手数料はほぼ無料にして、さまざまな機能をセットにしたサービスで稼ぐ発想が必要です。例えば、支払いデータ分析や会計ソフト、税理士サービスなどと連携し、サービス利用料のみにすれば、店舗も導入しやすくなるでしょう。