これまで本連載でも取り上げてきた第二創業を起こし、業績を伸ばしている企業はいずれも、継いだ経営者が会社の強いビジョンを掲げて、その達成に向けて会社を動かしていました。しかし、そのやり方は、大きく2つに分かれます。

1つは「洗脳型」。トップがひたすらビジョンを語り続けることで、社員のマインドを変え、目指すゴールに到達しようとするものです。そしてもう1つが山根氏の採用した「スクリーニング型」。トップが明確なビジョンを新しく掲げて、合う人と合わない人とを選別する。経営学では「情報の非対称性」という考えがあります。この場合、従業員が本心で何を考えているかという情報が、経営者にはわからない(=非対称である)ことを指します。しかし、そのままではやる気がない社員が多く会社に残り、それを見てバカバカしいと思ったやる気のある社員がモチベーションを落としかねません。そこで山根さんは強烈なビジョンを掲げることで、やる気がない社員に自主的に離れてもらう施策をとったと言えるのです。

このスクリーニングがあったからこそ、山根さんのビジョンに共感する、本当にやる気のある社員だけが残り、その後の成功の土台になったと言えるでしょう。その後サンワカンパニーは、採用を強化し、現在は約200名に達しようとしています。「会社のカルチャーをつくるのは新卒社員だ」という信念から、山根氏は新卒採用にも注力をしています。

業界では珍しい分割払い&SNS解禁●建築資材のショールームは撮影禁止のところが多いが、撮影も可能。個人向けに分割払いのサービスもはじめた。

ハードランディングな改革を成功させた山根氏は、地道な改革も進めていきます。デジタル広告に力を入れ、認知度をじわじわ上げていったこともその1つ。

ほかにもスマホのWi-Fiを通して匿名データを取得できる「Wi-Fiビーコン」をショールームに設置。実際の接客データとウェブ上のデータとを紐づけて集客に活用するなど新しい取り組みも積極的に仕掛けます。

「ショールームに『写真OK』のPOPを置き、SNSで拡散してもらうなど、とにかく地道な努力を重ねました。一連の改革を『地味イノベーション』と自分は呼んでいるのですが、効果は確実に上がっています」

「社会的正当性」を強化する人材登用

最後のポイントは、山根氏の打ち手の中でも興味深い、「レジティマシー(社会的正当性)」の巧みな活用です。経営学では、人は「社会的正当性がある」ものを重視する傾向があることがわかっています。ここで山根氏が正当性確立のために活用したのは、「年配の優秀なサポーター」でした。