海外旅行は、西洋史や東洋史を学ぶこととセットです。旅をするときは古代ローマや近世のイスラム、インド哲学や仏教文化に関連する本を積極的に読むようにしています。すると今度は、そこに書かれている別の場所にも行ってみたい、という気持ちが起きますから、自然と海外旅行の回数が増えるのです。
個人旅行の場合、私は現地で信頼できるガイドを雇って案内してもらいます。すると、その国の庶民の本音がわかるのです。
2018年、フランスを旅行しました。そのときのガイドは、マクロン大統領に対して激烈な不満を述べていました。日本で新聞や識者の解説を読む限り、フランスの大規模デモ「黄色いベスト運動」はどれだけ深刻なものなのか判断しにくいところがありますが、私はフランスの庶民感覚を肌で感じ、黄色いベスト運動の背景には根深いものがあるだろう、という見立てを早くから持っていました。先日も、そのことについてフランスの経営者と意見交換をしたところです。
多様な人たちと触れ合うメリット
ところで、そもそも教養とは仕事に役立つものなのでしょうか。10の取り組みは、特に仕事に役立てようとして始めたわけではありませんが、やはり「役立った」と思えることはあるのです。
たとえばワインです。実は企業経営者にはワイン好きの人が多いのです。好きなワインや訪れたワイナリーの話で意気投合して、その後の話がスムーズに進んだといったことは少なくありません。とりわけワイン文化が浸透しているヨーロッパの方が相手だと、その国のワインの話ができれば、それは間違いなく大きな武器になります。
クラシック音楽も、相手先との関係づくりに役立ちました。
ある地方銀行に頭取を訪ねたときの話です。営業目的だったこともあり、最初はよそよそしい雰囲気でした。ところが、その銀行が日本公演を協賛している海外のピアニストの話をした途端、頭取は身を乗り出してきて、そこからクラシック談義に花が咲きました。
ほかにも「役立った」と感じるのは、趣味を通してさまざまな方と触れ合ったときです。たとえばエアロビクスのためにスポーツクラブへ行くと、ご一緒した方との何気ない会話から、生命保険や保険会社が契約者からどう思われているかを知ることができます。
生命保険会社の経営では、庶民の感覚をビジネスに生かしていくことが重要であり、そのためには、肩書を外してさまざまな方と気楽にお付き合いすることが大事なのです。これは海外旅行で現地のガイドから、その国の庶民の暮らしぶりや考えを聞くことで理解が深まることに似ています。
仕事一筋もいいのかもしれませんが、それだけでは経営者にとって大事な感覚をなくしてしまうおそれがあります。私も知らないことがたくさんあり、まだまだ勉強しなければなりませんが、その感覚を磨くために、趣味や教養を極めてみることも大切だと思います。
朝日生命保険会長
1949年、東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後の72年、朝日生命入社。金融法人部長、営業企画部長などを経て2004年取締役常務執行役員営業企画統括部門長に就任。同経営企画統括部門長を経て08年社長、17年より現職。