ビジネスに密着した「宗教」を学ぶ大切さ
みなさんは、自分が何曜日生まれか把握していますか? 私は「土曜日生まれ」と即答できます。なぜなら、赴任先だったタイで、この質問を何度も受けたからです。
タイは仏教国。ただ、日本の仏教とはかなり様子が違います。日本で広く普及しているのは、念仏を唱えたら誰でも大きな船に乗せられて助けてもらえるという考え方の「大乗仏教」。私の実家のお墓があるお寺の浄土真宗も、大乗仏教の1つです。一方、タイで定着しているのは、「上座部仏教」。厳しい修行やお布施をした人だけが救われる仏教です。
上座部仏教には生まれた曜日ごとに仏様がいて、お参りのときは自分の曜日の仏様にお供え物をします。タイは優しい国なので自分の誕生曜日がわからない人用の仏様も用意されていますが、いずれにしてもみな自分の曜日の仏様を意識しています。
曜日によって色も決まっています。プミポン前国王の誕生日には黄色い服を着た人が街に溢れましたが、それは国王が月曜日生まれで、シンボルカラーが黄色だったから。ちなみに土曜日は紫。会社に僧侶にきてもらってお布施をしたときは、私も服に紫のものをつけてお迎えしました。このようにタイでは自分が生まれた曜日を意識せざるをえない場面によく出くわすのです。
上座部仏教が浸透しているのは、ビジネスも同様です。タイでは、修行のためにお寺に半年間入るという社員は珍しくありません。それに対して、日本人の感覚で「忙しいのに半年間も有休を取るなんて」と愚痴をこぼすのは厳禁。現地の社員たちからそっぽを向かれて、きっと業務が回らなくなるでしょう。
私はもともと兵庫の姫路製作所で、自動車機器の設計をやっていました。当時は、日本の自動車メーカーが積極的に海外に進出。それに合わせて、部品メーカーも現地に拠点を置きました。私が2003年に2代目社長として赴任したタイも、その1つです。単身赴任で不安はありましたが、海外での経験はおもしろそうだという思いのほうが強かった。
現地に行って最初に覚えたタイ語は、「トロン パイ(まっすぐ行け)」でした。現地では運転手をつけてもらったのですが、タイ語ができないと、自分がどこに連れていかれているのかわからなくて不安なのです。だから「クワー(右)」「サイ(左)」を覚えたのも早かった(笑)。
幹部社員との定例会議は、多くが英語でした。ただ、一般社員にはなるべくタイ語を使うようにしていました。海外から社長がやってきて、英語や日本語でペラペラやられたら、あまりいい気がしないですよね。日本人も、外国の方が日本語を話してくれたら、それが片言でも親近感が湧いてきます。それと同じように、私もタイ語で話しかけることで距離を縮めようとしたのです。