休暇観を変えた、「アイスホテル」の休日
これまでで一番印象に残っている休暇といえば、30歳の誕生日のサプライズプレゼントに夫が連れて行ってくれた、スウェーデン北部にある「アイスホテル」です。当時は子どもが生まれる前で、夫婦でスウェーデンに住んでおり、私はスウェーデンのH&Mで働き始めていました。
のんびりした夜行列車で向かったのですが、今でも列車の揺れやエンジンの音を覚えているほど。電車を降りた瞬間は、マイナス30度空気に顔が凍りそうになりました。ホテルでは、氷と雪でできた部屋の、氷のベッドに泊まります。夜中に布団から出てトイレに行くのも大変な覚悟。寒いと体が求めるものも変化して、食欲が増し、普段食べないような油っぽいものを食べたくなるのも発見でした。
アイスホテルは、毎年違うアーティストが室内をデザインし、トルネ川で取った透明な氷のブロックを使って作り直されます。数カ月後には解けてなくなってしまうのに、手間暇をかけて素晴らしい作品を作り上げるのです。ホテルの中を歩くだけでも畏敬の念を抱かされます。人間の創造する力とチームワークのすばらしさ、そして自然のパワーに圧倒される経験でした。
この体験をきっかけに、休暇の過ごし方が大きく変わり、仕事を離れ、都会を離れたところで、自然の中に身を置いてゆったり過ごすようになりました。
予定を一切入れないで1日を過ごす
今も、毎年夏休みには、家族で夫の両親が住むスウェーデンで過ごします。夏の北欧は「白夜」と言われるように夜遅くまで明るいので1日が長いのですが、予定を一切入れず、気の向くままのんびり散歩をしたり、子どもたちと一緒に庭で育てている野菜をとってきて料理をしたり、日々の小さなことを楽しむようにしています。
普段は家事も仕事も、限られた時間の中でできるだけたくさんのことをこなそうとしているので、私たちの体の中には「効率追求」がプログラミングされています。スウェーデンでの休暇中、散歩に行くときも、私はつい「どこに行く」「何時に戻る」など、目的を持ったり計画を立てたりしたくなってしまうのですが、夫に「散歩は散歩。目的はいらないでしょう」と言われてハッとしました。ほかにも例えば家で子どもとただカードゲームをするだけの時間を過ごすことに罪悪感を覚える人もいるでしょう。でも、いったん「効率」から離れてみないと得られないものもあるのです。