「独禁法の事業規制では意味がない」のか

さらに、独占的な事業者に対する規制と同様の規制を行うべきだという指摘に対して、「伝統的な『不可欠施設』の運営者に対する規制のような厳しい規制を新たに導入することは、以下の理由より適切であるとはいえない」とまで言っている。ちなみに「不可欠施設」とは電力ガスや鉄道などの公共性の高いサービスを提供する独占事業者のことだ。

そのうえで、2つの理由を記している。

「デジタル・プラットフォーマーの多くは自由競争とイノベーションによって成長を遂げた民間事業者であり、基本的には政府の保護・監督の下で発展した伝統的な独占的な事業者とはその性格が異なる」
「デジタル・プラットフォーマーに対しては、参入規制を設けその中で監督を強めるよりは、むしろ競争環境を整備して、デジタル・プラットフォーム間の競争によるイノベーションを促した方が、その効用を最大限に発揮できると考えられる」

プラットフォームの運営事業者が、利用事業者に不利な契約変更を求めていることなどに対しては、「独占禁止法の不公正な取引方法(優越的地位の濫用等)や私的独占の規制を当てはめる余地がある」としているものの、続けてこう指摘している。

独禁法違反として排除措置命令などを出すことは、厳格な事後規制なので、審査に相当程度の時間を要する。さらにプラットフォーマーが相手の場合、審査が困難で一層の時間を要する。しかも、対応が遅れた場合の被害も大きなものとなりかねないというのだ。つまり、独禁法の事業規制では意味がないと言っているのである。

プラットフォーマーだけを規制できない事情

そのうえで、ガイドラインの制定や事業者団体の組成などを検討すべきだとしている。自民党の調査会が求めた、ガイドラインの制定でお茶を濁そうとしているようにみえる。

欧米のような「契約社会」と違い、日本は中小企業など「下請け」企業や業務請負の労働者の権利はなかなか守られない。強いものがその立場を利用して取引条件を決めるケースが少なくないが、公取委が「優越的地位の乱用」で強者を処罰することはほとんどない。

自動車メーカーの下請けに対する締め付けは有名だが、下請け企業が青息吐息でも巨大メーカーは巨額の利益を上げてきた。そんな下請けとの取引関係についても本格的にメスが入ったことはない。そんな中で、GAFAなどプラットフォーマーだけを「優越的地位の乱用」で規制するわけにはいかないのだろう。

巨大な企業がどんどん肥大化し、富を独占していく今の資本主義に、欧米諸国は危機感を持っている。そんな中で、日本はいつまで大企業優先の政策を続けていくのか。公取委の奮起を期待したい。

磯山 友幸(いそやま・ともゆき)
経済ジャーナリスト
1962年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。日本経済新聞で証券部記者、同部次長、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長・編集委員などを務め、2011年に退社、独立。著書に『国際会計基準戦争 完結編』(日経BP社)、共著に『株主の反乱』(日本経済新聞社)などがある。
(写真=時事通信フォト)
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