延期によって弛緩したロンドンの離脱ムード
筆者は5月中旬にロンドンとブリュッセルを訪問し、何人かの有識者に対して英国のEU離脱に関するヒアリングを行った。両都市でも多くの有識者が、英国とEUが18年11月に合意した協定案に基づく離脱を軸に、交渉が10月以降も延期される展開をメインシナリオに据えていた。
一方でロンドン市内を歩いてみると、交渉の延期に伴い、離脱に向けたムードがむしろしぼんでしまったような印象を受けた。離脱派、残留派とも市内でシュプレヒコールを上げているわけではなく、ウェストミンスター宮殿(国会議事堂)の周りに残留派の活動家をちらほらと見かけたくらいだった。
実際、ロンドンの有識者に聞いてみると、市内のEU離脱に対するムードは延期によってかなり弛緩してしまったようだ。英国の国内では、離脱という国難を前にしても、与野党が政争に明け暮れている。そうした状況に、少なくともロンドンの有権者は疲れ果てているようだ。
有識者との会話からも、交渉の不透明感に対する一種の「諦め」がうかがえた。政府系シンクタンクや外銀のエコノミストはしきりに英国の景気が堅調だとアピールしていたが、冷静に考えればその堅調は離脱を目前に生じた駆け込み需要によるものだ。それさえポジティブにアピールしなければならない状況は一種異様な光景だった。
まさに「政治危機」の状態に陥っている英国
有権者の疲れは5月2日にイングランドと北アイルランドで行われた統一地方選の結果や、5月23日から実施される欧州議会選の政党支持率調査に表れている。
統一地方選では与党保守党が大敗し、最大野党の労働党も議席を減らした。代わって離脱撤回のための国民投票の実施を主張する自由民主党が議席を増やした。離脱をめぐって政争に明け暮れる二大政党に嫌気が差した有権者の民意の受け皿に、自由民主党がなった形だ。
一方、欧州議会選を控えた政党支持率調査では、ハードブレグジッターであるナイジェル・ファラージ氏が率いるブレグジット党が約30%の支持を得て一位に躍り出ている。有権者は必ずしもファラージ氏の主張に共感していないとみられるが、これまでの交渉に疲れた民意をブレグジット党が吸収しているようだ。
膠着が続く交渉を受けて、英国民を疲労と弛緩が包んでいる。そして、二大政党に対する有権者の不信感は着実に高まっている。仮に保守党が事態の打開を目指して解散総選挙に打って出るとしても、敗北するだけだろう。英国はまさに政治危機の状態に陥っているわけだ。