EUの官僚のストレスもピークに

ブリュッセルでもまた、EUの官僚を中心に英国のEU離脱問題に関するストレスがピークに達しているようだった。この問題が長引けば長引くだけ、EUはこの問題に対して人員を充てなければならなくなる。ほかにもやるべきことは多くあるため、EUはこの問題だけに時間を費やすことなどできないというわけだ。

EUとしては、英国がEUをどのように離脱するのか、いい加減に明確な筋道を立ててほしいといったところだろう。当事者である英国側の方針が定まらないと、EU側の方針も決めようがない。妥協をするにしても、英国側の出方が定まらない限り、EUとしては何の対応も取りようがないということのようだ。

まとまらない英国の態度にいら立ちを見せるEUの官僚の中には、いっそノーディール(合意なき離脱)でも構わないといった意見が高まっていると聞いた。そこには、ノーディールのダメージをEUは十分コントロールできるというEU側の自信がある。英国の問題にこれ以上付き合ってはいられないというところだろう。

欧州の企業だけではなく日系企業も、英国のEU離脱の期限とされた3月末には在庫や預金を積み増すといった対応に迫られた模様だ。ただ離脱が延期され、さらにいつ実現するか分からないようでは、企業も対応に苦慮する。不確実性を嫌う企業は投資や生産を手控えるため、景気にも悪影響が及ぶことになる。

「気づいたときにはノーディール」かもしれない

膠着が続いた結果、英国のEU離脱交渉は、英国の国内でもEUとの関係でも行き詰ってしまった。事態を打開させるためには、英国が10月末の期限までに、離脱の在り方を問い直す国民投票をするとか、あるいは離脱の意思を撤回するといった具体的な提案をEUに対して行う必要があるだろう。

それができないようなら、双方が回避に向けて努力してきたノーディールで、この問題は決着することになるかもしれない。危機管理の戦略の一つに、最悪の事態を想定した上で可能な限り事態の打開の道を探る「意図的楽観」というものがある。ただ政争に明け暮れる今の英国の与野党の体たらくを見る限り、英国の政治家が意図的な楽観に基づきEU離脱の問題に対処しているとはとても言えない。

現在、ロンドンのムードは弛緩しているが、金融や企業の関係者の緊張感は議会の夏季休暇が明ける9月ごろから再び高まるだろう。ただこれまでの交渉の過程で疲れ果ててしまった英国の有権者の緊張感は緩み切ったままかもしれない。多くの人々が当事者意識を欠いたまま、10月末の交渉期限が到来しそうな予感がする。気づいたときにノーディールでは、まさに後の祭りだ。

土田 陽介(つちだ・ようすけ)
三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査部 研究員
1981年生まれ。2005年一橋大学経済学部、06年同大学院経済学研究科修了。浜銀総合研究所を経て、12年三菱UFJリサーチ&コンサルティング入社。現在、調査部にて欧州経済の分析を担当。
(写真=EPA/時事通信フォト)
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