大統領がFRBの利上げを批判し続ける異様さ

足元、米国の経済は好調だ。労働市場はタイトである。賃金は緩やかに増え、個人消費も堅調だ。設備投資も底堅い。財務内容が相対的に劣るジャンク級企業の資金調達も活発だ。この中で、FRBが慎重に利上げを行い、金融政策の正常化を行う意義はある。それは、将来の金融緩和の余地を確保するためにも重要だ。

しかし、大統領がFRBの利上げを批判し続けるという異例の展開を受けて、FRBが大統領の要請に配慮するだろうとの見方が増えている。それほどに大統領がFRBに利下げを求めることのマグニチュードは大きい。FRBの独立性は、かなり揺らいでいる。

FRBは「利下げ観測」を必死で牽制しているが……

4月30日、トランプ氏は米国の金利が1%低ければ、経済は記録的な成長率を達成するだろうと、再度FRBを批判した。これに対して、5月1日のFOMCにてFRBは、金融政策の決定において政治要請は考慮しないことを明示した。

同時にFRBは、忍耐強く現状の金融情勢を維持する考えも示した。これは、FRBによる政治要請への抵抗といえる。FRBは、政治要請を反映した利下げ観測を牽制し、経済状況を確認しつつ、慎重かつ客観的に金融政策を運営する姿勢を表明した。

ただ、FRBの立場は劣勢だ。FOMCの後、米国の株価は下落した。利下げへの期待は、かなり強かった。株価下落は、トランプ氏にとって我慢できるものではない。同氏は、理事候補の指名などを通して、FRBへの影響力を強めようとするだろう。決め打ちはできないが、米国の金利は上昇しづらい状況が続く可能性がある。

この状況から思い出されるのが、かつての日本銀行だ。2012年12月の総選挙で、自民党は政権与党に返り咲いた。安倍首相は財政政策、構造改革よりも金融政策を重視し、さらなる金融緩和に積極的な専門家を日銀の政策委員に指名し、デフレ脱却を目指したのである。