「民主党政権であれば経済も金融市場も低迷していた」
トランプ氏は就任直後から株価の動向に神経をとがらせてきた。例えば、2017年11月、ニューヨークダウ工業株30種平均株価が当時の最高値を更新した。この時、トランプ氏は株価の上昇が自らの手柄であると主張し、民主党政権であれば経済も金融市場も低迷していただろうとツイートした。
昨年9月下旬から本年年初まで、米国の株式市場では「GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)」をはじめとするIT先端銘柄をはじめ、多くの企業の株価が急速かつ大幅に下落した。それはトランプ氏にとって、自らへの評価が大きく低下していることを示唆する動きに他ならなかったのである。
株価を押し上げるために最も効果があるのは、金利を低下させることだ。金利が低下すれば、投資資金はより高い期待収益を求めて、株式に流れ込む。この考えに基づき、トランプ氏は米国の中央銀行であるFRBを批判し、金利を引き下げるように強く求めている。
「FRB理事に求められる資質」が変わってきた
昨年10月、トランプ氏は、自らの手腕で米国経済が上向いているにもかかわらず、FRBの利上げが成長の妨げになっていると批判した。トランプ氏は、FRBが景気回復に合わせて段階的かつ慎重に利上げを行ってきたことが気に入らない。この考えは、FRBの金融政策に無視できない影響を与えている。
すでにトランプ氏は、自らの考えに近い2人(ハーマン・ケイン氏とスティーブン・ムーア氏)をFRBの理事候補に指名した。すでに2人とも理事指名を辞退しているが、大統領自ら利下げを重視する人物をFRBに送り込もうとしていることは、軽視できない。
これまでの米国の政権であれば、理事に求められる資質(学位の取得状況、経済や金融市場に関する実務経験の有無、景気動向に関する客観的かつ理論的な分析能力など)を慎重に評価し、複数の候補者の中から最も適していると考えられる人物を選んできた。これに比べ、現在のトランプ氏は利下げに共感できるか否かを軸に、理事候補を選んでいる。
このマグニチュードは大きい。市場参加者は、大統領が利下げを重視していることを真剣に受け止めているのだ。実際、4月30日と5月1日に開催されたFOMC(連邦公開市場委員会、米国の金融政策を決定する会合)に関して、かなりの市場参加者が利下げの可能性が示されると考えた。