▼成人した子供がニート
「負け犬」と罵られ、殴り合いの大喧嘩に
僕はね、モラトリアムってそれほど悪いことだと思わないんです。極端に言えば、そんなときは無理に社会に出なくてもいいと思うんです。
僕も、医師の道しか許さぬ親の反対を押し切って東京の大学に入ったものの、一時は学校に行かず新宿の将棋道場に入り浸っていました。進路が決まらずにいたら、たまたま知人の紹介で日本将棋連盟に就職が決定。そこで、すべてを懸けてプロ棋士を目指す青年たちと出会いました。
将棋のプロになるには、養成機関である奨励会に入るのが通例で、棋士になれるのはうち1割ほど。満21歳の誕生日までに初段、満26歳の誕生日までに四段になれなかったら退会を余儀なくされる厳しい世界です。
元奨励会員のA氏は在籍時、年齢制限のプレッシャーからノイローゼでアパートに引きこもり、兄のアドバイスで南の島へ逃避行。同じくB君は退会が決まった日、友人の故・村山聖九段(大崎氏著『聖の青春』の主人公)に「あなたは負け犬だ」と罵られ、殴り合いの大喧嘩に。挫折感を拭うため、夜の繁華街で粋がる奴を相手にストリートファイトを繰り広げ、その後は俳優の付き人をしたり役者を目指したりと変転を重ねました。19歳で退会が決まり、何をしていいかわからなかったC君は、師匠に「海外でも放浪してこい」と言われ、アフリカやヨーロッパをアルバイトしつつ放浪しました。