喫茶店を選んだのは「なんとなく」

僕の場合、会社勤めは嫌なことばかりなので、嫌なことをした対価としてお金をもらうことになる。確かに、世の中のたいていの人は大なり小なり嫌なことを我慢しながら働いて、そのお金で生きている。ただ、僕はその我慢で手に入る安定した生活や、ブランド物の服を着ること、高い車に乗ることを幸せとは思わない。僕が僕の価値基準で定義した幸せは、会社に勤めるという我慢をしなくても手に入れることができる。

世の中に数限りなく存在するレールの中から、僕は自営業というレールを選んだ。まず、どんなお店をやりたいのか考えた。僕はよく自炊をしていて料理が好きだったので、なんとなく飲食がいいなあと思った。飲食の中でも一番ゆったりしていて楽そうだと思ったのが喫茶店だった。

それに、喫茶店は自由度が高い。ご飯が食べたい人はご飯を食べ、コーヒーを飲みたい人はコーヒーを飲んでいる、本が読みたい人は本を読んでいるし、ボーっとしたい人はボーっとしている。それぞれがなんとなくそこに集まり、好きなように時間を過ごす、放課後の部室のような自由度の高い空間が僕は大好きだった。コーヒーが好きとかケーキが作れるとかではまったくなかったけれど、なんとなくの理由で喫茶店を選んだ。

写真提供=しょぼい喫茶店

とにかく早く作って早く出す

ここからは、これまでの喫茶店経営でわかったことを体系的に解説していきます。が、必ずしも僕のやり方が正解ではないことと、しょぼい店の運営術であることを念頭に置いていただければと思います。

しょぼい喫茶店には大きく3つの側面があります。

ひとつめが、いわゆる普通の喫茶店としての側面です。看板を見て店に入って来てくれた通りすがりのお客さんが多い時は、この側面での営業になります。ランチの時間帯が多いです。

しょぼい喫茶店の近所には競合になるファミレスもなければランチ営業をしている居酒屋もないので、しょぼい喫茶店というわけのわからない店にわざわざ階段を上ってきてくれるお客さんがけっこういます。お昼休憩時のサラリーマンの方や近所のおばちゃんたちが多いです。

この側面での営業の時は、とにかく早く作って早く出すことを心掛けています。しょぼい喫茶店を開いた経緯を知らないお客さんには普通の飲食店を演じなきゃいけないので、ピリッとした感じになって僕は少し苦手ですが、それでも、どこかで修行したわけでもない僕の料理をおいしいと言ってもらえた時は素直に嬉しいです。